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リウマチ Vol.41 No.2             
「免疫機能分子を介した免疫制御」
 
奥村 康
順天堂大学医学部免疫学
Abstract
 
 
実地医家のための教育講演1


1.はじめに

 免疫反応のはじまりから収束まで,種々の細胞群が関与するが,なんといってもT細胞はその中心的役割を果たすと考えられる。T細胞と呼ばれる細胞群の中には,細胞性の免疫反応に関与するものから,B細胞の分化を助けるヘルパー細胞,標的を障害するキラー細胞,それにサプレッサー細胞と種々の異なった機能があることがわかってきた。機能別による亜群(subpopulation)の分類ができるT細胞の表面マーカー分子を検索している途上,そのリンパ球表面の分子群こそ,リンパ球の機能と密接な関係のある分子であることが明らかになってきた。われわれはこれらの分子の研究を続けているうち,リンパ球の活性化のためにCo-stimulatoryのシグナルを入れ得る分子にはいくつか重要なものがあることを調べてきた。リンパ球の上の分子は単に細胞間の接着だけに関与するだけではなく,接着の後に細胞内にシグナルを入れて,細胞を正にまた負に活性化するという意味を含めてリンパ球機能分子(lymphocyte functional molecules)ともいっている。

 リンパ球機能分子はほとんど遺伝子レベルで同定されたものをもとに研究が行われているが,やはりその生物学的な重要性を知るためには,in vitroよりはin vivoでのLFAに基づいた反応をみる実験系が最終的に最も大切だと考えている。とくに臨床にたずさわっている先生方にこの接着分子の臨床での意義を考察してもらうために,動物の個体レベル,臓器レベルでの働きの解明が有用と考える。われわれはとくにマウス,ラットの動物実験系を用い,免疫反応に関与する種々の機能分子の役割を調べている。

2.免疫寛容とB7,B70

 T細胞に関する接着分子はLFA-1(lymphocyte function associated antigen-1)や,ICAM-1(intercellular adhesion molecule-1),VLA-4(very late antigen-4),VCAM-1(vascular cell adhesion molecule-1)などいくつかの大切な分子が知られている。その中でもとくに注目すべきはT細胞のCD28を介する刺激である。CD28からのシグナルは休止期のT細胞を活性化させることのできる分子で,効率よく眠っているような休止期のT細胞の目を覚まし活性化することができる。また,活性化したT細胞に出現してくるCTLA-4(cytolytic T lymphocyte associated antigen-4)(CD152)は,活性化T細胞を再び静かにすることができる反対の抑制性シグナルを入れるレセプターとして知られている。CD28のライガンドとして,マクロファージをはじめとしたAPC(抗原提示細胞APC;antigen presenting cell)上のB7と呼ばれる分子が知られていた。それに加えて私たちの研究室で,数年前,同じくCD28を介してシグナルを入れることができる分子としてB70と名付けた分子を同定することができた↑1)↑。

 CD28を介して,シグナルを入れることのできるB7,B70分子の役割の相違が今や話題の一つで,種々の実験系でこの二分子の免疫反応における役割の相違が判明しつつある。

3.抗体(抗B7,B70)投与による免疫制御

 われわれは主にマウス,ラットの免疫病モデルを用い,CD28を介したシグナルのモノクローナル抗体による遮断がいかなる効果を及ぼすかを調べてきた。

 たとえばB70またはB7分子に対する抗体を心臓移植マウスに投与すると,容易に半永久的なトレランスを導入することが可能である。両者の抗体を混ぜて移植後5日間連続投与すると投与を中止してからもそれ以後,強いトレランスを導入することができ,移植後の心臓の生着期間は約150日以上とほとんど終生にわたり拒絶されることはなかった。抗B7,抗B70を投与している際に体の中にあるドナーの心臓に存在するアロ抗原に特異的な免疫寛容が成立していることが示唆された。

 また,B70の異常発現が自己免疫疾患の発症につながることから,B70とCD28の分子間接着を阻止し発症を抑制しようという試みが世界的に数々の研究室でなされている。たとえば,B70とCD28の間をブロックする可能性CTLA4(CTLA4Ig)の投与により,抗体産生の抑制,糖尿病マウスの病態改善,心臓移植の移植臓器生着,骨髄移植モデルマウスのGVHD(graft-versus-host disease:移植片対宿主疾患)の抑制,SLE(systemic lupus erythematosus:全身エリテマトーデス)モデルマウスの発症抑制,糸球体腎炎モデルラットの病態改善などが認められている。特に糸球体腎炎モデルラットでは発症前の投与による予防効果のほか,腎炎を発症し,蛋白尿出現後の投与でも腎炎の治癒が認められ,慢性の自己免疫疾患時に一番大きな役割を果たしているのはCD28であることが明らかになってきた。著者らも抗B70抗体を用いて追試したり,また他の疾患モデルでの検討を行っているが,慢性に遷延する病気の抑制に接着分子に対する抗体がきわめて有用であることがわかってきた。

 たとえば,リウマチのモデルの一つとも考えられるタイプUコラーゲンを用いた関節炎において抗B7抗B70抗体の投与効果を調べている。関節炎発症前,関節炎発症後,に抗体をそれぞれ投与して関節炎の発症抑制効果を調べると,免疫制御剤の一つであるサイクロスポリン(CyA)と比較し発症前に抗体を投与したものは弱い抑制効果しかないが,発症後に抗体を投与すると強い抑制効果がみられ,CyAに比較してもその関節炎抑制効果は強い。実験的に惹起できる免疫反応の動物モデルはいくつか知られているが,この関節炎においては,心臓移植拒絶抑制反応と異なり,発症後のCD28からのシグナル,あるいはCTLA-4(CD152)へのシグナルの遮断が有用であることを示している。

 また,全身性の自己免疫疾患であるSLEのモデルとも考えられている(NZB×NZW)F1マウスを用いて抗B7抗B70の効果も調べている↑4)↑。

 疾患の増悪の示標として蛋白尿を調べつつ抗体投与の効果をみたものである。SLE様の症状がみられるまでには,マウスがある程度加齢しなければならないが,蛋白尿が出現する以前に抗体を投与すると,ほとんどのマウスの発症を終生にわたって抑制してしまうことが可能である。興味あるのは,蛋白尿が出現してから抗体を投与しても効果は顕著で,マウスの蛋白尿は減少し,腎炎の症状が改善されることも判明した。CD28を介したシグナルを調節することで,自己免疫疾患を統御できる可能性が出てきた。

 このような接着分子抗体を介して特異的な免疫制御を通して病気を治療しようという試みのほか,逆に免疫増強を誘導して疾患を治療しようという試みもある。たとえば,B7,B70を発現しない癌細胞にB70を遺伝子移入の方法で強引に発現させると,癌細胞に対するキラー細胞が出現するのではないかという考えで,免疫増強のための接着分子遺伝子の移入実験も行われている。その例として,B7またはB70を腫瘍細胞に発現させ,これをマウスの皮下に接種すると,B7では6例中5例に,B70では6例全例に腫瘍の排除が考察された。このように動物実験で抗腫瘍効果が認められたことから,すでに発癌した人の癌細胞を採取し,その癌細胞にB70を混入して免疫する癌のワクチン療法への応用研究も進んでいる。

文 献

1) Azuma M, et al:B70 antigen is a second ligand for CTLA-4 and CD28. Nature 366:76, 1993
2) Nakajima A, et al:Preferential dependence of autoantibody production in murine lupus on CD86 costimulatory molecule. Eur J Immunol 25:3060, 1995

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