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リウマチ Vol.41 No.1             
「椎間板で作用するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP) ──椎間板変性から椎間板ヘルニアまで──」
 
波呂浩孝  高橋 誠1
東京医科歯科大学疾患遺伝子センター運動器分子変性部門・
同大大学院医歯学総合研究科脊椎脊髄神経外科学1
〈Keywords〉 degeneration:herniated disc:intervertebral disc:matrix metalloproteimse(MMP)
 
綜  説

T.は じ め に

 腰痛は筋骨格系の不具合の中で最も多いものであり,一生涯で70―80%の人が腰痛を経験する↑1)↑。椎間板変性は腰痛や腰部神経根障害を生じる一つの大きな要因であるが,椎間板変性は正常な加齢変化の一部分であり,磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)を用いた研究によると,変性した椎間板の割合は年齢とともに上昇し,70歳までに80%の椎間板が変性に陥ると報告されている↑2)↑。また,日本における最近の統計では腰椎椎間板ヘルニアが原因で入院治療を行っている割合は1000人中7.4人と多く,腰痛は整形外科外来における主訴でトップであった。しかしながら椎間板変性,さらに変性した椎間板が脊柱管に脱出して神経症状を示す椎間板ヘルニアの正確なメカニズムについてはいまだ不明のままである。今回,椎間板変性と椎間板ヘルニアにおけるタンパク分解酵素matrix metalloproteinase(MMP)の作用について検討したので紹介する。

U.椎間板変性におけるMMP遺伝子多型の関与

 椎間板変性の重要なステップとして,MMPなどの分解酵素による椎間板マトリックスの分解がある。MMP-3(stromelysin-1)は強力なproteoglycan分解酵素の一つであり,椎間板変性において重要な役割を担っているものと考えられている↑3)↑。さらにヒトMMP-3遺伝子のプロモーター領域には,5つのadenosine(A)が配列したアリル(5A)と6つのAが配列したアリル(6A)が存在し↑4)↑,5Aアリルの方が6Aアリルに比べ2倍のMMP-3転写活性を有することが報告されている↑5)↑。そこでわれわれは,MMP-3遺伝子のプロモーター領域に存在するこの多型が椎間板変性と関連するのではないかと考えた。
 研究の内容を理解し書面で同意の得られた日本人ボランティア,青年54人(平均年齢21.4歳),高齢者49人(74.3歳)から全血2mlを採取,ゲノムDNAを抽出しMMP-3プロモーターの遺伝子型(5A/6A)を検出した。さらに青年層では腰椎MRI T2強調画像を撮像,高齢層では腰椎単純レントゲン写真を撮影し,各腰椎椎間板の変性度を決定した。
 1人当たりの平均変性椎間板数(MRI T2強調画像で低信号,あるいはKellgren分類で変性度2度以上の椎間板数)をみると,青年層では5Aアレルを持つ群(5A5Aおよび5A6A;5A+群):0.53±0.19椎間(±SE),5Aアレルを持たない群(6A6A;5A−群):0.35±0.10椎間と群間で有意な差を認めなかった(図1A)が,高齢層では5A+群:4.00±0.30椎間,5A−群:3.10±0.29椎間と5A−群に比べ5A+群の方が有意に変性椎間板数が多かった(↑*↑P<0.05,t-検定,図1B)。さらに高齢層では,5A+群と5A-群の椎間板変性度の分布は有意に異なっており,5A−群に比べ5A+群の方が高等級へシフトしていた(↑**↑P=0.0029,Mann-Whitney検定,図2)。したがって,高齢層においては,5Aアレルは腰椎椎間板変性を促進する危険因子であることが明らかとなった↑6)↑。

V.椎間板ヘルニアにおけるMMP-3

  およびMMP-7の発現と作用
 最近,非侵襲的な検査であるMRI検査が腰痛症患者に簡便に施行されるようになってきて,椎間板ヘルニアが経時的に体積が減少する自然退縮機序が認められることがわかってきた(図3)↑7)↑。椎間板ヘルニアの手術検体を免疫組織学的に検討すると,ヘルニア塊は軟骨基質の中に新生血管の増生と多数のマクロファージを中心とした炎症性細胞の浸潤が認められた↑8)↑。また,浸潤してきたマクロファージや椎間板内の軟骨細胞がMMPに属するMMP-3とMMP-7を発現していることを確認した(図4)↑9〜11)↑。MMPは中性領域で主に作用する酵素で,関節内や椎間板組織で生理的に発現している。MMP-3とMMP-7は軟骨組織の主成分であるアグリカンを基質とする。これらの所見から,椎間板ヘルニア内で発現が確認されたMMP-3とMMP-7はヘルニア塊の退縮に重要な作用を有することが推測された↑12,13)↑。そこで椎間板が脊柱管内に脱出した直後の急性期モデルを再現する目的で,椎間板組織とマクロファージの共培養を作成した↑14,15)↑。また,MMP-3とMMP-7両ノックアウトマウスを用いて双方からマクロファージと椎間板を採取して共培養を作成して,MMP-3とMMP-7の特異的な作用について検討した。

1.共培養系における炎症性サイトカインを介したMMP-3とMMP-7の発現制御
 椎間板組織はわずかにMMP-3の発現が認められたが,MMP-7の発現については検出できなかった。マクロファージはMMP-7の発現を認めた。しかし,共培養群ではMMP-3とMMP-7双方の強い発現を認めた(図5)。共培養で培養開始時にTNF-αの中和抗体を培養液中に加えると,MMP-3の発現は強く抑制された(図6)。IL-1βの中和抗体では部分的にしか抑制できなかった。
 また,これらMMPの産生細胞を同定する目的でインサートを用いて作成した共培養からマクロファージとアルジネートに包埋した軟骨細胞を別々に採取してRNA抽出を行い,その後MMP-3とMMP-7の発現をRT-PCR法により検出した。単培養では軟骨細胞が主にMMP-3を,マクロファージが主にMMP-7を発現していたが,共培養では双方の細胞がMMP-3とMMP-7を強発現していた。つまり,インサートを用いた共培養系(マクロファージおよび軟骨細胞はお互いに非接触)を用いたことにより,マクロファージおよび軟骨細胞から産生された可溶性因子が相互にコンタクトした結果,MMP-3とMMP-7の発現が促進されたと考えられる。

2.椎間板へのマクロファージ浸潤メカニズム
 MMP-3とMMP-7ノックアウトマウスを用いてマクロファージと椎間板組織を摘出し共培養を行った。MMP-7ノックアウトマウス由来のマクロファージとMMP-3ノックアウトマウス由来の椎間板を用いた共培養群では椎間板内へのマクロファージの浸潤が強く抑制されており,多くのマクロファージが線維輪の周囲に付着していた。椎間板細胞由来のMMP-3は椎間板内へのマクロファージ浸潤に重要であることが判明した。マクロファージ由来MMP-7はマクロファージが椎間板内に浸潤するために必要な酵素の一つといえる。
 マクロファージが椎間板内へ浸潤するメカニズムを明らかにすることはヘルニア退縮機序の解明に重要である。椎間板マトリックスからのマクロファージ走化因子の遊離についてBoyden chamber migration assayを用いて検討した。野生型椎間板単独培養液ではマクロファージは中等度の走化性を示したが,野生型同志の共培養では単独培養と比較して5.6倍の走化性を示した(図7)。一方,MMP-3欠損マウス由来の椎間板と野生型のマクロファージを用いた共培養では単独培養と同程度の走化性しか示さなかった(図7)。また,野生型同士の共培養では濃度勾配に依存する方向性を持った走化性を示すケモタキシスとランダムな細胞運動活性を示すケモカイネーシスの双方の因子が認められた↑14)↑。しかし,MMP-3欠損マウス由来の椎間板と野生型のマクロファージを用いた共培養ではケモカイネーシスの因子のみ認められた。よって,共培養下では椎間板からMMP-3の産生増加を認め,このMMP-3が椎間板マトリックスを分解する過程でマクロファージ走化性因子を遊離あるいは産生するメカニズムがあることが示唆される。

3.椎間板の分解
 野生型あるいはMMP-3とMMP-7ノックアウトマウスを用いて,マクロファージと椎間板組織の共培養を行った。これらマウス由来の椎間板組織の単培養も行った。椎間板組織の培養前後の湿重量を計測し,培養後の椎間板組織のプロテオグリカン含有量を検討する目的でSafranin O染色を行った。すると,野生型あるいはMMP-7欠損マウス由来の椎間板組織を用いた共培養では,培養後の椎間板湿重量がMMP-3ノックアウトマウス由来の椎間板を用いた場合と比較して統計学的に有意に低下していた(図8)。また,野生型あるいはMMP-7欠損マウス由来の椎間板組織は,Safranin O染色の染色性が低下していたが,MMP-3ノックアウトマウス由来の椎間板では染色性が維持されていた(図9)。
 変形性関節症のような関節内軟骨組織の分解にはADAM-TS(a disintegrin and metalloproteinase-thrombospondin)ファミリーに属するaggrecanseが重要とされているが,椎間板の変性分解にはMMPがaggrecanaseより重要であることが知られている。今回の実験結果から,椎間板由来MMP-3は椎間板組織の分解に必須であることが判明した。野生型椎間板の単培養中に炎症性サイトカインTNF-αを加えると培養液中にMMP-3が産生されることがwestern blotting法により分かったが,この検体には椎間板の湿重量とSafranin O染色性の低下は認められなかった。よって,椎間板の分解には椎間板由来のMMP-3産生は必須であるが十分ではなく,マクロファージの椎間板内浸潤を要することがわかった。

W.ま  と  め

 腰痛や腰部神経根症状の発症に大きな影響を与えている椎間板変性と椎間板ヘルニアについて,遺伝子解析とノックアウトマウスを用いたモデルマウスを用いて解析した。これまで臨床の炎症像を反映した椎間板ヘルニアモデルは確立していなかった。実際の椎間板ヘルニア塊の退縮にはさまざまな細胞や因子が作用していることが容易に予想されるが,今回マクロファージと椎間板軟骨細胞という椎間板ヘルニアの肉芽を構成している2大細胞に着目して椎間板ヘルニア急性期モデルを作成した。
 このモデルでは椎間板内に浸潤したマクロファージが確認されて,免疫組織染色とwestern blotting法により共培養からMMP-3とMMP-7の強発現が確認されて,椎間板ヘルニアの手術検体と同様の発現パターンを示した。
 共培養中の椎間板組織は培養後に湿重量が低下し,プロテオグリカン含有量が減少したことから,椎間板ヘルニアの退縮過程に類似している。共培養下では,MMP-3の発現が増強し椎間板由来のMMP-3が椎間板組織の分解やマクロファージの椎間板内浸潤に重要であることが明らかになった。これまでの報告にMMP-3ノックアウトマウスを用いたコラーゲン誘導関節症モデルでは軟骨破壊の軽減は認められず,むしろ増強したことが報告されている↑16)↑。
 また,最近関節軟骨の分解にはADAM-TSに属するaggrecanaseが重要な作用を有することが報告されているが,この酵素は関節軟骨の分解には重要であったが椎間板の分解には重要ではなかったという報告もある↑17,18)↑。今回のモデルでも椎間板組織の分解には少なからず椎間板由来MMP-3の関与が重要であることが判明した。さらに,高齢者の椎間板変性の進行にはMMP-3プロモーター領域の多型性が関与していることも明らかとなった。
 一方,MMP-7はマクロファージの椎間板内浸潤に重要である。TNF-αの中和抗体を用いた実験により共培養下でのTNF-αは椎間板の分解やMMP-3の誘導に重要であることがわかった。共培養液中の遊離型TNF-αは野生型同士の系ではELISA法で確認できたが,MMP-7ノックアウトマウス由来のマクロファージを用いた共培養では遊離型TNF-αの産生が著しく減少していた。しかし,後者の培養液中にリコンビナントMMP-7を加えると遊離型TNF-αが確認された。よって,これまでTNF-αを細胞から遊離するのに重要であると報告されているTACE(TNF-α converting enzyme)の他にMMP-7も同様の作用を有する可能性がある↑19,20)↑。
 MMPはこれまでもマクロファージの組織浸潤過程に重要であるとされてきた。とくに,MMP-12(metalloelastase)はMMP-12ノックアウトマウスを用いた研究でマクロファージによるタンパク質分解や組織浸潤に必要であることが示されている↑21)↑。しかし,今回のMMP-3およびMMP-7ノックアウトマウスを用いた実験により,マクロファージと椎間板の系ではこれらMMPがマトリックスの分解やマクロファージの浸潤に重要であることが明らかとなった。
 野生型マクロファージとMMP-3欠損マウス由来の椎間板を用いた共培養における培養液内にはマクロファージ走化因子の産生が認められなかった。MMP-3で制御されるマクロファージ走化因子が何かについては現在まで特定できていないが,MMP-3が椎間板のマトリックスを分解して出てきた産物がマクロファージの走化性を有している可能性もある。
 われわれの研究から,椎間板の退縮過程にはマクロファージと椎間板内軟骨細胞との相互関係が重要であり,この接触によりMMP-3とMMP-7が強発現されて椎間板の分解やマクロファージの椎間板浸潤に重要な作用を有していることが明らかとなった。
謝辞:MMP-3欠損マウスはJohn Mudgett(Merck Research Laboratories),TACEに関してはRoy Black(Immunex)の両氏に対して深謝する。また,今回紹介した内容の多くはVanderbilt大学Department of Cell BiologyのDr. MatrisianおよびDepartment of Orthopaedics and RehabilitationのDr. Spengler, 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科脊椎脊髄神経外科学との共同研究で行われた。

文     献

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著者紹介
 1989年 山口大医学部医学科卒業
 1997年 東京医科歯科大大学院医学系研究科卒業
 1997年 米国テネシー州バンダビルト大学整形外科 客員助教授 1999年 東京医科歯科大疾患遺伝子センター運動器分子変性部門 客員助教授(現職)
主要研究テーマ:脊椎疾患における分子生物学的研究


図 1A,B MMP-3プロモーター領域の5A/6A多型と1人当たりの変性腰椎椎間板数

図 2 高齢層におけるMMP-3プロモーター領域の5A/6A多型と椎間板変性度の分布

図 3 椎間板ヘルニア自然退縮機序

MMP-3 MMP-7
図 4 腰椎椎間板ヘルニア手術検体におけるMMP-3とMMP-7の発現

図 5 共培養におけるMMP-3とMMP-7の発現

図 6 炎症性サイトカインとMMP-3の発現メカニズム
マウス椎間板とマクロファージとの培養にあらかじめヒツジ抗マウスTNF-α抗体(1ng/mlまたはヒツジIgG(1ng/ml)を加えて共培養を行い,培養液を用いてMMP-3の発現についてwestern blotting法を用いて調べた。

図 7 共培養下での走化性因子
腹腔内マクロファージをBoydenチャンバー上層に置きチャンバー下層のフィルターに浸潤してきた細胞数を高倍率6視野でカウントした。チャンバー下層には野生型あるいはMMP-3欠損マウス由来の椎間板組織と野生型マクロファージの存在あるいは非存在下で培養した。野生型同志の共培養では,椎間板単培養と比較して統計学的有意に浸潤細胞数が多かった(↑*↑P<0.05)。

図 8 共培養下における椎間板湿重量の変化
Mann-Whitneyテストを用いて統計学的処理を行い,結果をmean±SDとして表した。培養前と培養開始3日目とで統計学的処理を行い,P<0.05のものを有意差を認めるとした(*)。おのおののグループの椎間板はn=7とした。

野生型同士の共培養 MMP-3欠損椎間板使用共培養
図 9 椎間板内プロテオグリカンの分解
培養後の典型的なSafranin O染色切片を示す。野生型同士の培養後の椎間板組織はMMP-3欠損マウス由来の椎間板組織を用いた共培養の椎間板組織と比較して明らかに染色性が低下していた。


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