TRAの疫学的背景と遺伝的素因
慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は,関節滑膜細胞の増殖,関節,軟骨,骨の破壊を伴う進行性の慢性炎症性疾患で,全身性エリテマトーデスとともに代表的な全身性自己免疫疾患である。全人口に占めるRA患者の割合は,世界中で0.5〜1.0%程度であり↑1)↑,日本では70〜100万人程度の患者数が想定されている↑2)↑。北アメリカ先住民族(Native
American)のように顕著に高い罹患率を示す民族↑3)↑や,逆にナイジェリア人のように例外的に罹患率が低い特殊な民族↑4)↑は存在するが,診断基準の違い等を考慮すると人種による発症頻度差は小さいと一般的には考えられる。RA発症率は年齢とともに増加し,逆に60歳を越えると減少する↑5)↑。とくに女性の場合には男性よりも発症頻度が2〜3倍高く,年齢層では30〜50歳で好発する傾向が認められる↑5)↑。しかし,RA発症は明確に性に連鎖するものではなく,このような性差は男性においてRA発症に対する何らかの抵抗反応が働いていることに起因すると考えられており,その一つとして男性ホルモン(アンドロゲン)の影響が指摘されている↑6,7)↑。つまり,女性ではRA発症に至るまでの危険因子蓄積の閾値が,男性よりも低いと考えられる↑5)↑。
RAの病態に関しては,昨今の分子生物学的手法の進歩によりサイトカインカスケード等の免疫学的側面をはじめとした理解が飛躍的に進んだが,根源的な病因に関しては,いくつかの状況証拠が得られてはいるもののいまだ直接に全体像を解明するには至っていない。しかし,RAには遺伝性が存在することが,これまでの疫学データから示唆されている。また,この遺伝性は単一の遺伝子によるメンデル遺伝性ではなく,複数の遺伝子による非メンデル遺伝性であると考えられている。メンデル遺伝性疾患の場合には,親から子へと明確な遺伝性が認められる疾患であり,疾患発症に対して強い効果を持つ単一の遺伝子を原因とする。一方,非メンデル遺伝性疾患ではこのような明確な遺伝性は認められず,疾患に対して比較的弱い効果を持つ複数の遺伝子が家系を通して個体に集積されることによって発症に至ると考えられている。さらに,非メンデル遺伝性疾患は,複数の遺伝子の関与に加えて環境要因をも考慮に入れる必要がある場合が多く,このように多数の要因が複雑に絡み合うことから,多因子性疾患(multifactorial
disease),あるいは複合性疾患(complex disease)とも呼ばれている。メンデル遺伝性疾患の例として血友病などが,非メンデル遺伝性疾患の例として糖尿病,高血圧,高脂血症や動脈硬化などが挙げられる。以下にRAの遺伝性を示唆する2つの疫学データを示す。
1.家系内集積性が認められる
非メンデル遺伝性疾患の遺伝性を定性・定量するための疫学データとして重要なものは,集団での発症率と家系内での発症率であり,この両発症率を比較することによって遺伝性の有無が推定される。疾患が遺伝性を持つならば,疾患を遺伝する家系内での発症率は,集団全体での発症率よりも高くなると期待されるからである。RAにおける家系内発症率は8%程度であり,一般集団における発症率が約1%であることから,家系内集積性をはかる指標であるλ↓R↓値(=家系内発症率/一般集団での有病率)はおよそ8であると推定される↑8)↑。つまり,一般集団と比較すると家系内での発症率が8倍程度高いことを意味しており,これによってRA発症には遺伝的素因が関与することが示唆される。しかし,他の非メンデル遺伝性疾患での値と比較すると,この値はけっして高いものではないことに留意すべきであろう。
2. 一卵性双生児におけるRA発症の一致率が二卵性双生児に比べ有意に高い
遺伝性の有無を推定する際に,家系内集積性と並んで重要となる疫学データに,一卵性双生児と二卵性双生児における各ペアでの発症一致率(双生児がともに罹患する率)がある。対象とする疾患に遺伝性がない場合,両ペアの一致率はほぼ同程度の低い値になるが,遺伝性が強まるほど両双生児における一致率が高くなり,とくに一卵性双生児における一致率が高くなる。これは,一卵性双生児では遺伝的背景が二卵生双生児よりも均質であるという経験則から期待される。表1より,一卵性双生児での発症一致率が二卵生双生児よりも4倍程度高いことから,確かに遺伝的素因の関与が示唆される。しかし一方では,二卵性双生児において発症一致率が急速に低下することから,原因となる遺伝的素因(RA感受性遺伝子)が染色体上に複数存在すると予想される。
さらには,一卵性双生児の発症不一致率が高いことは,RA発症に遺伝的素因以外の要因,つまり環境要因が多分に関与していることを反映していると解釈すべきであろう。そのような例としては,マイコプラズマ,ミコバクテリア,種々の腸内細菌等の細菌感染や,Epstein-Barrウイルス,HTLV-1とその他のレトロウイルス,風疹ウイルス,パルボウイルス等のウイルス感染がRAの発症に影響を与える環境要因の候補に上がっているが,いずれも決定的な証拠は得られていない。
また,RAは一般集団における高い有病率からヒト通常疾患(common disease)とも呼ばれ,複数の疾患感受性遺伝子が個体に集積されることで発症に至ると考えられている。ヒト通常疾患発症の遺伝的モデルはいまだ明らかではないが,その発症率の高さからも,一般的には疾患感受性を規定する複数の遺伝子多型の蓄積が発症リスクを高めていると予想されている。つまり,一般集団に標準的に認められる多型は,それ単独では生体にそれほど重篤な影響を及ぼすことはないが,複数の多型がある組み合わせで個体に集積され,それがある種の疾患に対する感受性を高めるような組み合わせであった場合に,その疾患を発症する可能性が高くなると考えられる。
現在,集団での遺伝子多型情報を収集し,個々人の表現形質を規定する遺伝的メカニズムを解明しようとするヒトゲノム多様性解析が世界的なレベルで精力的に進められている。このヒトゲノム多様性解析の一つの大きな目標は,さまざまなヒト通常疾患の疾患感受性遺伝子を同定することである。同様にして,このような手法を用いたRA感受性遺伝子の同定も強く望まれている。
そこで本稿では,現在までのRA感受性遺伝子同定の現状を概観した上で,ヒトゲノム解読の成果を利用して今後さらに大規模な展開が予想されるヒトゲノム多様性解析の流れを,われわれが現在進めているプロジェクトの内容を中心に述べていきたい。
U.ゲノムワイドな罹患同胞対連鎖解析
上述したように,RAのような多因子性疾患ではマーカー遺伝子型と疾患表現型の関係が崩れやすく,少数の大家系内で遺伝子型と表現型の対応を追跡するパラメトリックな連鎖解析法は適用が困難である。そこで罹患同胞対(affected
sib pair)を巧妙に用いた,必ずしもメンデル遺伝様式を事前に必要としないノンパラメトリックな連鎖解析法が利用されてきた。
罹患同胞対法では,疾患を発症した多数の同胞対におけるマーカー対立遺伝子(あるいはハプロタイプ)共有の期待値からの偏差を指標にする。すなわち,疾患と連鎖しない染色体領域に存在するマーカーでは,同胞対内で母親もしくは父親由来の対立遺伝子を2個,1個,0個共有する確率は25%,50%,25%であるが,疾患感受性遺伝子座と連鎖するマーカーについては,同じ対立遺伝子を共有する確率が連鎖のない場合よりも高く偏るという期待に基づく。このような偏差を多数の同胞対間で検査し,連鎖の尤度を検定する。この方法では,すでに疾患表現型を持つ同胞対内でのマーカー対立遺伝子の挙動を独立に観察するので,ゲノム全体に配置した多数のマーカーで同時に複数の遺伝子座を対象にして観察を行うことができる。この利点をもって,近年,多因子性疾患の遺伝的マッピング解析の主流になっている。
しかしながら,その欠点として,2世代での組み換えしか観察できないので解像度が低く(通常10cM),感受性領域のさらなる絞り込みに労力を要するということが知られている。また2世代での組み換えに依存したわずかな偏差を指標にするので検出力もそれほど高く維持できない。この検出力の低さは,遺伝子効果の低い疾患感受性遺伝子座の多くを取り逃してしまう可能性があることを意味している。検出力を高めるには,多数の同胞対を集める必要があるが,両親と罹患同胞対というサンプル構造を持った家系を集めることはそもそも簡単ではないというジレンマが存在する。これらの利点と欠点を踏まえた上で,これまでRAに関して行われた罹患同胞対解析の結果を以下に概説する。
RAについては,ヨーロッパと日本の独立した2つのグループによってゲノムワイドに罹患同胞対解析を行った結果が報告されている。The
European Consortium on Rheumatoid Arthritis Families(ECRAF)のCornelisらは,114組の罹患同胞対を対象に309個のマイクロサテライトマーカーを用いたスクリーニングを行い,HLA領域に最も有意な連鎖を,他に14か所の領域で連鎖を認めている↑11)↑。これらの候補領域のうち,インスリン依存性糖尿病の感受性領域と重複する3番染色体長腕,18番染色体長腕の領域についてさらに別の194組の罹患同胞対を対象に,連鎖の有無を確認するために追試を行ったところ,3番染色体長腕の領域のみが有意な連鎖を示した。この領域には抗原提示の際の補助シグナル伝達分子であるCD80やCD86が存在し,候補遺伝子として疑われた。
日本では,ShiozawaらがRA罹患同胞対41家系を対象に358個のマイクロサテライトマーカーを用いたスクリーニングを行い,3か所の領域でmaximal
lod score(MLS)が3以上の有意な連鎖を認めた↑12)↑。CornelisらとShiozawaらがそれぞれ報告したRA感受性領域の一覧を表2に示す。Cornelisらは論文中で,1番染色体,X染色体の2領域についてShiozawaらと同一の領域での連鎖を認めたとしているが,Shiozawaらは,両者の結果が10cM以上離れた位置での連鎖を示していることを根拠に,明らかに別の領域であるとしている↑13)↑。ちなみに,Shiozawaらはその後X染色体上の連鎖領域に着目し,マイクロサテライトマーカーを用いてより詳細な遺伝的マッピングを行い,最も強い連鎖を認めた位置にDblプロトオンコジーンがマップされることを見出した↑13,14)↑。さらにDblプロトオンコジーンのcDNAを調べると,RA患者において第
23,24 エクソンの欠失が認められ,近傍のイントロン領域にmRNAのスプライシングに影響する単一塩基多型(single nucleotide
polymorphism:SNP)が見出されたと報告している。しかしながら,このSNPがRA患者集団においてどの程度の頻度で認められるのかということについては不明である。
両グループで共通しない領域については,用いた集団や用いたマーカーセットによる偽陰性・偽陰性の可能性もある。この場合に,実際に最も問題となるのは,他の方法で確認を行える偽陽性ではなく,疾患遺伝子座を取り逃してしまう偽陰性である。いずれにしても,解像度と検出力の低い罹患同胞対法は,遺伝子効果の強い感受性遺伝子座を含む候補領域の一次スクリーニングには有効であるが,多因子性疾患の感受性遺伝子を遺伝子効果の弱いものまで含めて網羅的に同定することは比較的困難であろう。
V.候補遺伝子アプローチ
候補遺伝子アプローチとは,ある遺伝子をその生体内での機能から疾患遺伝子の候補と仮定して,その候補遺伝子と疾患の遺伝的相関を検証する方法である。時として,事前の連鎖解析等で絞り込まれた領域内に存在することを根拠とすることもあるが,ほとんどの場合は機能的側面からのみ候補を選ぶ単純な遺伝的相関解析として行われることが多い。遺伝的相関解析は,疾患対立遺伝子の【創】始者から何世代にもわたって起こった組み換えを期待できるので,罹患同胞対法に比べて解像度が高く検出力に優れている。一方で,疾患家系内での組み換えを直接観察する方法ではないので,独立した検定のたびに偽陽性が生じる率が高く,得られた危険率に厳しい補正を加える必要があるとされている。また,候補遺伝子を対象とした遺伝的相関解析の場合には,検討した以外の遺伝子が関与する可能性をつねに排除できないという大きな欠点を持つ。これらの欠点にもかかわらず,罹患同胞対法のような特別な構造のサンプルを必要とせず,工程が簡便であることからよく行われてきた。
最近,日本人RA患者48人を対象に,41種類の候補遺伝子のイントロン領域,5'側非翻訳領域,エクソン領域についてSNPs解析を行った結果が報告されたが↑15)↑,健常者と比較した検討ではないので,この情報を利用した今後の相関解析および連鎖不平衡解析の結果が待たれる。本稿では,RAとの相関が明確に示されているHLA-DR遺伝子と,RA発症に関与するサイトカインの中で多型解析が最も盛んに行われてきたTNF-α遺伝子に焦点を絞り,その概況を以下にまとめる。
1.HLA-DR
RAの疾患感受性を規定する候補遺伝子としてこれまで唯一広く認められているのは,HLAクラスU領域に存在するHLA-DR遺伝子である。これまでにHLA-DR遺伝子とRAとの相関が世界中の多くの民族で報告されている↑16)↑。近年,DR抗原を構成する分子で最も多型性の高い部位のアミノ酸ドメインをコードするHLA-DRB1遺伝子をDNAレベルでタイピングできるようになったことで,血清学的には同じDR4でも,塩基配列の違いからさらに細分化されたサブタイプへの分類が可能となった。この方法によって,日本人ではDRB1↑*↑0405や↑*↑0410が,欧米人ではDRB1↑*↑0401や↑*↑0410が相関することが明らかとなった↑16)↑。その一方で,ユダヤ人,アフリカ系アメリカ人,アメリカ先住民族などのいくつかの人種ではDR4陰性例が多いことが知られていたが↑16)↑,それぞれの人種におけるDRB1対立遺伝子のアミノ酸配列を,感受性対立遺伝子と非感受性対立遺伝子で比較することによって興味深い結果が得られている。
DRB1の抗原との結合に関与する領域のうち,第三超可変領域のある部分,アミノ酸配列の70番目から74番目までの部分で,QKRAA,QRRAA,RRRAAのいずれかになっている場合は疾患との相関が認められるのに対し,この部分に荷電の変化を伴うアミノ酸置換を持つ対立遺伝子では相関が認められなかったのである。Gregersenらはこの配列をShared
epitopeと名付けた↑17)↑。Shared epitopeがどのような機序でRA発症に関わっているのかについてはいまだ明確な結論は得られていないが,これまでの検討結果から,特異的抗原ペプチド提示説が一つの可能性として提示されている。
Shared epitopeのアミノ酸配列は,HLA-DRに提示されるペプチドの,とくに P4 アンカーに強い影響を与え,感受性対立遺伝子ではこの部分に陰性荷電を有するアミノ酸が結合することが示されている↑18)↑。しかし,生体内で実際にDR4と結合する抗原ペプチドはいまだ同定されていない。また,最近,DR4-自己抗原(U型コラーゲン,HCgp39)複合体を人工的に作製し,これに特異的反応性を示す患者滑液中のCD4↑+↑T細胞の同定が試みられたが,陽性細胞は見出されていない↑19)↑。Shared
epitopeのRA発症への関与に関しては他にも諸説あるが,いずれも確実な証拠を得るには至っていないのが現状である。
また,RAの重症度との関連に関しては,RA感受性DR遺伝子のうちのいくつかが病態と相関することが以前より報告されてきた↑20,21)↑。Weyandらは,RAの重症度とHLA-DRB1の遺伝子型の関連について検討し,RA感受性対立遺伝子をホモ接合体とする患者がヘテロ接合体とする患者よりも重症で,ヘテロ接合体とする患者が感受性対立遺伝子を持たない患者よりも重症であるという,いわゆるgene
dosage effectを認めた↑22)↑。Wakitaniらも,日本人RA患者を対象として同様な効果を認めている↑23)↑。しかし一方で,HLA-DRB1とRA重症度との関連性について否定的な結果も報告されており↑24〜26)↑,現在まで重症度との関連に関しても統一的な結論を見出すには至っていない。RAでは,たとえば診断された時点まで軽症で推移していたとしても,その後急激に病態が悪化する場合もあり,病状の進行が一定ではない。また,患者毎の治療法の違いや発症時期特定の不明確さもある。これらのことがRA患者の重症度に応じた分類を困難にしており,結果の差異を生じる一因となっていると思われる。
ちなみに,DeightonらはRAの遺伝要因全体におけるHLAの遺伝子効果を約37%と推定している↑27)↑。Shared
epitope陰性のRA症例も一定の割合で存在することから,HLA以外の感受性遺伝子も少なからず関与していることが予想される。
2.TNF-α
RA患者の関節滑膜組織には広範に種々の炎症性サイトカインが発現しており,これらのサイトカインが形成するネットワークがRAの病態形成に密接に関わっている。中でもTNF-αは,IL-1,IL-6,IL-8,GM-CSF等の他の炎症性サイトカインの産生を誘導することから,サイトカインネットワークの中枢に位置していると考えられている。このような病態における重要性から,これまでTNF-α遺伝子(TNFA)をターゲットとした多型解析は積極的に行われてきた。
TNFAの多型としては,一塩基多型とマイクロサテライト多型が知られている。一塩基多型は,転写開始点に対して,−376,−308,−238,−163,+70の位置に認められている↑28〜31)↑。前4者はプロモーター領域中の塩基置換であり,+70はエクソンの5'非翻訳領域における一塩基の挿入である。RA発症との相関はいずれの多型にも認められていない↑32〜34)↑。しかしながら,−238の多型に関しては,G/Aという遺伝子型が骨破壊を伴わないRA患者と相関していることが報告されている↑34,35)↑。TNFAはHLAクラスV領域に位置しているが,この遺伝子型の相関はクラスUに位置するHLA-DR4との連鎖不平衡によるものではなかった。しかし,in
vitroでの転写活性に関してG/A遺伝子型とG/G遺伝子型の間で有意な差は認められていない↑35,36)↑ことから,−238G/A遺伝子型の機能的な関与については不明である。ちなみに,−308の多型は,大脳マラリア感受性とリーシュマニア症では相関が報告されており↑37,38)↑,実際に転写活性の顕著な上昇がin
vitroの実験で証明されている↑39)↑が,前述したようにRAでは相関が認められていない。
また,最近,日本人集団を対象としたTNFA多型検索において,−1031,−863,−857の位置に新たな一塩基多型が見出されている↑40)↑。このうち−857T/Tという遺伝子型についてはRA患者で相関が認められており↑41,42)↑,この多型による転写活性の上昇がin
vitroで認められている↑40)↑。実際,Matsusitaらが,Shared epitopeを有していながらRAとの相関がほとんど認められないDRB↑*↑0101が,−857C/Cという転写活性の低い遺伝子型と強い連鎖不平衡にあることを報告していることから↑43)↑,−857の多型とRA発症の相関に何らかの因果関係が存在する可能性が考えられる。その一方で,−857TがHLA-DRB1↑*↑0405と連鎖不平衡にあることも分かっており↑41)↑,RA発症への直接的関与の有無について,さらなる解析の結果が待たれる。
マイクロサテライト多型は,TNFA近傍に5か所(a,b,c,d,e)見出されている↑44)↑。Mulcahyらは,RA患者を有する50家系を対象とした解析により,RA患者でa6-b5-c1-d3-e3というハプロタイプが高頻度に連鎖していることを報告した↑45)↑。その際,このハプロタイプとHLA-DRB1との連鎖不平衡は認められていないことから,このハプロタイプはHLA-DRB1とは独立したものと考えられた。Martinezらも同様に,RA患者を有する52家系を対象として,HLA-DRB1とマイクロサテライトa,bについて解析を行った。その結果,a6-b5というハプロタイプが,Shared
epitopeの有無とは独立して,RA患者で高頻度であった↑46)↑。一方Muらは,マイクロサテライトaとHLA-DRB1について遺伝的相関解析を行い,a11とShared
epitopeの両方を有する場合に,骨破壊の重症度との相関が認められたと報告している↑47)↑。いずれにしても,連鎖不平衡の存在する領域を明確にした上で,RAの発症・進行に直接関わる多型を詳細に検索する必要がある。
ここまでTNF-α遺伝子について述べたが,TNF受容体遺伝子についても多型解析が行われている。前述したように,ゲノムワイドな罹患同胞対解析を別個に行った2つのグループがともに1番染色体短腕の領域(1p36)に連鎖を見出している。この領域は,全身性エリテマトーデス(systemic
lupus erythematosus:SLE)の罹患同胞対を対象としたゲノムワイドな解析においても連鎖が見出されており↑48)↑,SLEではこの領域にマップされるU型TNF受容体遺伝子のエクソン領域内のアミノ酸置換を及ぼす多型に有意な相関が認められていた↑49)↑。RAにおいてもこの多型部位をターゲットに相関解析が行われたが,有意な相関は見出されていない↑42)↑。
以上,RAにおいて多型解析が進められている代表的な候補遺伝子であるHLA-DRとTNF-αについてまとめた。その他の候補遺伝子アプローチの現状については,箱田の包括的な綜説↑50)↑を参照されたい。いずれにしても,これまでの候補遺伝子アプローチでは,RA発症への関与がそのメカニズムと共に明確に証明された感受性遺伝子は認められていない。
W.ゲノムワイドな遺伝的相関解析
最近,ヒトゲノムの塩基配列が,粗配列ではあるもののほぼすべて決定したことをアメリカ政府とイギリス政府が共同声明で発表したことは記憶に新しい。Beckらによるモニター(http://www.ebi.ac.uk/〜sterk/genome-MOT/)では,2000年10月29日現在30.0%が完全決定配列であるとされており,全塩基配列にわたる完全決定は2003年までに完了すると見込まれている。その流れを受け,これまで有効なアプローチのなかった多因子性のヒト通常疾患についても,感受性遺伝子検索が本格的に始められようとしている。ここまで述べてきたように,RAを含めた多因子性疾患の感受性遺伝子検索は,ヒトゲノム上の限られた領域や遺伝子のみを対象とすることしかできなかったり,全染色体を対象とする場合にも解像度の低い方法しか用いることができなかった。そのために感受性遺伝子の同定に至りつけないか,至りついたとしても他の遺伝子が関与する可能性を排除できない場合が多かったのである。ヒトゲノムの全DNA配列を利用したヒトゲノム多様性解析は,このような多因子性のヒト通常疾患解析の現状を,根本から変革する基盤情報を提供するものとして期待されている。これは,解読されたDNA配列全体に多型性情報を蓄積し,その結果見出される膨大な数のDNA多型を遺伝的マーカーとして利用すれば,ゲノム全体にわたって高解像度でかつ排他的な感受性遺伝子同定を行える可能性が指摘されたことに端を発している↑51)↑。
これまでに遺伝的マーカーとして利用されてきたDNA多型として,制限断片長多型(RFLP;restriction flagment
length polymorphism)や,ヒトゲノム中に散在する繰り返し配列であるVNTRやマイクロサテライト等の多型がよく知られている。表現型とは直接に機能的な関係のないこれらのDNA多型を遺伝的マーカーとして利用できることが示され,有効な表現型マーカーが少なく観察できる減数分裂の数も少ないヒトで実用的なヒト遺伝地図の作成に利用されてきた。このような遺伝的マーカー開発の流れの中で,ヒトゲノム配列の進展とともに最近脚光を浴びているのがSNPsである↑51,52)↑。
現在,ゲノム上に300〜500bpに1つの割合で存在するSNPsを網羅的に見出すことを目的としたプロジェクトが米国国立衛生研究所(NIH)やベンチャー企業,製薬企業のコンソーシアム等で組織され,精力的に収集が進められている。2000年8月に,欧米の製薬企業等で組織されているThe
SNP Consortiumが計30万個のSNPsを公開(http://www.snp.cshl.org/,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP)し,同年9月に,米国Celera
Genomics社が280万個のSNPsのデータベース構築を発表したことをみても,SNP収集への世界規模での取り組みの一端を窺い知ることができる。これらのプロジェクトでは,遺伝子のコード領域・非コード領域にかかわらずゲノム上に広く散在するgSNPs(genomic
SNPs)の収集が主に進められている。
一方,これらのgSNPsのうち,遺伝子コード領域中に存在するSNPs(cSNPs;coding SNPs)で,アミノ酸配列に変化をもたらすような多型が実際の疾患発症には関わっていると考えられ,疾患という表現型に直接関わるcSNPsを見出すことが感受性遺伝子同定に必須である。しかし,cSNPsを染色体全領域にわたって網羅的に同定することは,ヒトゲノム解読後にすべての発現遺伝子が同定されていることを前提とするため,まだしばらく時間を要すると予想される。
これとは別にgSNPsに関しては,真の疾患対立遺伝子多型との連鎖不平衡を検出するための遺伝的マーカーとしての実用性が期待されている。その一方で,gSNPsを遺伝的マーカーとして用いることに関して,さまざまな遺伝学上の問題点を含むことが次々と報告され,遺伝学者の間に論争を巻き起こしている↑53)↑。
KruglyakはgSNPsを遺伝的マーカーとして疾患対立遺伝子との連鎖不平衡を検出する方法をコンピューターシミュレーションにより検証している↑54)↑。それによれば,一般人類集団で疾患との連鎖不平衡をgSNPsをマーカーとして検出しようとすると,有効な連鎖不平衡を示す物理的距離は3kb以下にしかならず,50〜100万個(対立遺伝子にして100〜200万個)あるいはそれ以上のgSNPsが必要とされた。さらに,それ以下の数のマーカーを用いた場合には,連鎖不平衡の検出力に深刻な低下をもたらすことが指摘された。実際,Singらは,心臓病発症との関連が示唆されているlipoprotein
lipase(LPL)遺伝子について,心臓病のリスクとSNPsの遺伝的相関を明らかにしようとしたが,SNPsマーカーが染色体組み換えによる連鎖不平衡の減衰を受けやすいために,遺伝的相関の検出は困難であった↑55,56)↑。
一方,Collinsらは,過去RFLPとして用いられていたSNPsが実際にどの程度の範囲で連鎖不平衡を維持し得るか調べたところ,300〜500kbにわたって有効な連鎖不平衡を示したことから,3万個以下のgSNPsでゲノム全体を網羅できると試算した↑57)↑。
Ottはこの両者の結果の食い違いを,対象とする人類集団の選択の違いによるものであるとしている↑58)↑。隔離を経た集団をうまく用いることで,交雑の激しい大集団にみられる連鎖不平衡の大幅な減衰を避けることが可能であると予測している。
この2つの立場による論争はいまだ決着がついていないことから,さらに広範な検証が望まれる。
一方,これまで遺伝学的解析によく用いられてきたマイクロサテライトマーカーは,通常10個以上の対立遺伝子を有し,少なくとも100kb以上にわたって連鎖不平衡を維持できることが知られている。実際,われわれがこれまでに行ってきたHLA領域における尋常性乾癬の解析では,約1Mbのゲノム領域中のマイクロサテライトマーカーとSNPsの比較から,連鎖不平衡を示すマイクロサテライトマーカーが存在する範囲は約200kbであったのに対し,SNPsではこの範囲が約10kb以下であった。この結果からも,SNPマーカーとマイクロサテライトマーカーの性質の違いがよく理解できる。
以上の考察より,ゲノムワイドに連鎖不平衡を検出するには,マイクロサテライトのような多型性の高いマーカーを用いた方が,より効率的であると考えられた。また,マイクロサテライトは多型を生じるメカニズムがその繰り返し数に依存して単純であることから,迅速に多型マーカーを設定できると期待された。そこでわれわれは現在,約3万個(100kbに1個の間隔)の多型マイクロサテライトマーカーを,公開されたヒトゲノム配列上に設定するというプロジェクトに取り組んでいる。具体的には,日本人健常者集団100〜200人を対象として,新規に設計したマイクロサテライトマーカーの多型検索を行い,対立遺伝子数やヘテロ接合性を加味した上で多型性に富むマーカーを選択し,カタログ化している。また,すでに公共データベースに公開されているマイクロサテライトマーカー約1万個についても日本人における多型性を検索し,順次カタログ化を行っている。
すでにわれわれは,これらの新たに設定した多型マーカーを利用して,数種類の多因子性疾患を対象としたゲノムワイドな遺伝的相関解析を始めている。遺伝的相関解析をゲノムワイドに行うことは,偽陽性を補正する必要があるため,これまで不可能と考えられてきたが,最近のRischらの報告において,それが少なくとも理論的には不可能でないことが証明されている↑51)↑。その一方で,この方法では,患者集団と健常者集団の遺伝的背景が異なっている場合には,【創】始者効果ではなく集団間の遺伝的背景の差を反映してしまうという問題点がある。また膨大な数のマーカーを用いたことによる厳しい補正によって,逆に多くの領域が偽陰性として取りこぼされてしまう可能性もある。そこでわれわれは,ゲノムワイド相関解析を行う際に,対象集団をいくつかのフェーズに分け,まず患者と非血縁健常者を用いた検出力の高い相関解析を補正なしで行うことで有意な相関を示す領域を一次スクリーニングし,相関を示すマーカーに関して別の集団で補正ありで二次スクリーニングを行い,最終的には患者の両親を内部コントロールにする
transmission disequilib-rium test(TDT)法を採用して相関を追試するという方法を予定している。とくに,TDT法を複対立遺伝子に拡張したextended
TDT(ETDT)法は,マイクロサテライトマーカーを用いた疾患解析に非常に優れた方法であることが知られており,この方法のゲノムワイド相関解析への適用を併せて予定している。このように,マイクロサテライトマーカーを用いた複数フェーズのゲノムワイド相関解析により感受性候補領域を100kb程度まで絞り込んだ後に,各感受性候補領域内ではSNPマーカーを用いて狭い範囲で連鎖不平衡を検出するという二段階の方法を予定している。このような方法で,ゲノム中に存在する真の疾患感受性遺伝子を高い検出感度を維持したまま“排他的”に同定できると考えている。
逆説的であるが,多因子性疾患の遺伝性やその発症機序の完全な理解は,すべての感受性遺伝子(加えて環境因子)が見出されてはじめて可能である。本アプローチを用いてRA発症に関わるすべての感受性遺伝子を排他的に同定することにより,その成果が病因の本質的理解,新たな作用機序の薬剤デザイン,発症の予防などにつながることを期待したい。
謝辞:本稿を執筆するにあたり,多くの有益なご助言を下さいました東京大学大学院医学系研究科人類遺伝学教室の土屋尚之先生に御礼申し上げます。
文 献
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著者紹介
1994年 東京理科大理工学部応用生物科学科卒業
1996年 同大理工学研究科応用生物科学専攻修士課程修了
〃 中外製薬株式会社探索研究所 研究員 1997年 同【創】薬資源研究所 研究員
2000年 東海大学医学部分子生命科学2(派遣) 研究員
主要研究テーマ:分子遺伝学,疾患遺伝学
表 1 双生児におけるRA発症一致率
報告者 一卵性双生児
総ペア数一致ペア数(%) 二卵性双生児
総ペア数一致ペア数(%)
Aho et al.↑9)↑ 82 9(12.3) 175 6(3.5)
Silman et al.↑10)↑ 91 14(15.4) 112 4(3.6)
表 2 ゲノムワイドな罹患同胞対解析で報告されたRA感受性候補領域
染色体上の領域対象集団
1p36-pter E,J
2p13-pter E
2q33-37 E
3q13 E
5q32-33 E
6p21 E
6q21-23 E
8q23 J
12p13-q24 E
13q31 E
13q32-qter E
16p12 E
18q12 E
22q11 E
Xq24-27 E,J
E:European J:Japanese
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