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リウマチ Vol.40 No.5

            
「慢性関節リウマチ─21世紀に向けての診断と治療─」
 
松 井 宣 夫
 
Editorial

 慢性関節リウマチ(以下RA)は多関節における滑膜の増殖と関節,骨の変形,破壊を特徴とする全身性慢性炎症疾患である。持続する関節炎は関節機能を障害し,患者は社会的に著しく制限を受けるのみならず,経済的負担も無視できない。治療の目的として,炎症を抑制して疼痛をとり,関節破壊の進展を抑制して,機能を保持し,寛解状態を維持することにある。我々リウマチ医としては,21世紀に向けてより早期の診断と,新しい治療法の可能性を探らなければならない。

1.RAの早期診断の重要性

 RA治療に際しての最大のポイントは非可逆的な関節破壊が生じる前に,RAを診断することである。しかしながらRAは発症の形が多様で,早期診断の難しい疾患である。患者を注意深く観察し,関節所見,血液所見,画像所見などを参考にしながら,早期RAを診断し,非可逆性の関節破壊が発症する以前に治療することが重要である。

2.早期RAに対する手MRIの有用性


 画像による早期診断法としてMRIの有用性が報告されている。ガドリニウム造影脂肪抑制MRIを用いるとにより細部まで滑膜炎の存在を発見しやすい。すなわち早期リウマチにおいて手関節部では橈骨手根関節,手根間関節,手根管において100%,遠位橈尺関節と伸筋腱腱鞘で93.8%と高率に陽性を示し,MRIはリウマチの早期診断に有用であり,これらの部位での注意深い観察が必要である。
 更に最近当教室では,このMRIにて得られた活動性滑膜炎像の半定量化を試みている。この滑膜量はCRPと高い相関関係にあり,早期から経時的なRA活動性の評価に,また薬効判定にも有効であろうと考える。

3.グリオスタチンによるRA病勢モニタリング

 RAにおいてInterleukin-1β,TNFαは骨軟骨破壊のメカニズムのkey elementsとなっている。そのほかIL-6,chemokinesなどもRA関節液,血清中から高濃度に検出されている。当教室ではRA関節液中に高濃度で含まれるグリオスタチン(GLS)がRAの病態に深く関与していることを明らかにし報告している。GLSは1991年に教室の大塚らにより神経線維腫より単離精製した蛋白質であり神経栄養作用,血管内皮細胞の増殖と遊走の促進,in vivoにおいて血管新生を促進する作用が報告されている。
 RA患者において, 血清中, 関節液のGLS濃度は,正常人や変形性膝関節症の患者の濃度より著しく高い。またRA患者の血清中GLSを測定することで, RA病勢のモニタリングが可能であった。今後は早期RAの血清中グリオスタチン濃度測定により,早期診断が可能か否かを検討する予定である。

4.RA血清中IgGの糖鎖分析


 RA患者では血清IgG糖鎖構造に異常があり,ガラクトースが欠損した糖鎖が増加することが1985年のNatureで報告されている。当教室では高速液体クロマトグラフィー(以下HPLC)を用いたRA患者血清IgGの糖鎖分析を行っていた。
 HPLCは再現性の高い分析法であり,ガラクトースのほかにバイセクティングN-アセチルグルコサミン(以下bisect GlcNAc)残基,フコース残基の有無もわかる利点がある。しかしその分析法は煩雑であり,より簡便な方法としてガラクトース欠損IgGに対する抗体測定キット(エイテスト○RCA-RF)が発売され,保険点数も算定されるようになった。従来のRF測定法(LN-RF)と比較してRAの陽性検出率も良好な成績に加えて,疾患特異性も高いと報告されている。

5.最新の薬物治療


 近年,NSAIDsをめぐってシクロオキシゲナーゼ(COX)-2阻害剤が注目されている。1971年VaneはアスピリンやインドメタシンのようなNSAIDsはCOX活性を阻害することにより,PG産生を抑え,抗炎症作用を発揮することを発見した。
 1990年にはいり,COXにはCOX-1とCOX-2とよばれる少なくとも2つのアイソザイムがあることが明らかとなった。またCOX-2は慢性関節リウマチ,大腸癌,大腸ポリープ,胃癌,乳癌などの病態での発現上昇が報告されている。米国ではすでに特異的COX-2阻害剤であるセレコキシブ,ロフェコキシブがスピード承認され,市販されている。
 現在本邦で使用されているDMARDsは9種類であるが,新しいDMARDsも開発されている。1つは1998年にUSA FDAで承認を受けたピリミジン合成阻害剤であるレフルノマイドがある。本邦でも早期承認が望まれる。

6.RAを対象にした生物学的製剤


 今までのDMARDsとは違った生物学的製剤も次々開発されてきている。すなわち細胞をターゲットとした製剤,サイトカインをターゲットとした製剤,接着分子をターゲットとした製剤がある。
 RAの病態に種々のサイトカインが関与していることが明らかになってきているが,とりわけIL-1とTNFαは重要な役割を演じている。そのため新たな治療戦略として,これらサイトカインを標的にした治療法が開発されている。特にTNFαはサイトカインネットワークの上流に位置すると考えられており, TNFαを標的とした生物学的製剤がアメリカFDAで1998年, 1999年に相次いで承認された。現在本邦でも治験中である。

7.遺伝子治療について

 昨年 5 月の官報にて遺伝子治療の対象疾患が<生命を脅かすかまたは生活の質を著しく損なう難治性疾患に拡大>することが公示され,本邦でもRAも遺伝子治療の対象となった。RAの病態に対応しては,免疫抑制遺伝子治療,抗炎症遺伝子治療,転写因子制御遺伝子治療,滑膜細胞制御遺伝子治療などの遺伝子治療戦略が考えられる。
 今から10年前の1990年,Journal of RheumatologyのeditorialにてZiffにより次のような展望が提示されていた。すなわちサイトカインインヒビターによる治療,モノクローナル抗体による治療,ヒト化抗体による治療,T細胞ワクチン,サイトカインによる治療である。これらの治療法のうちいくつかはすでに臨床応用されているものもあり,開発途上のものもある。ここ10年での慢性関節リウマチの病態解明に基づいた治療法開発のスピードは目を見張るものがあり,21世紀に向けてさらなる早期診断法の開発,治療法の進歩が期待される。

著者紹介
 1963年 千葉大学医学部卒業
 1968年 同大大学院修了
 1970年 同大整形外科 助手
 1978年 同 講師
 〃 1月〜8月 日本リウマチ学会フェローシップ,主にスイスSchulthess Klinikに留学
 1981年 千葉大整形外科 助教授
 1985年 名古屋市立大整形外科 主任教授(現職)
 1997〜1999年 同大附属病院長
主要研究テーマ:RAの病態研究,画像診断,関節鏡学,関節外科

 

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