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リウマチ Vol.40 No.4

            
「関節の診察が出来る「リウマチ医」になって下さい   ─日本リウマチ友の会の「リウマチ白書」に啓発されて─」
 
高 杉   潔
Editorial

 始めに,この巻頭言がいささか型破りなものとなることをお断りしておきたい。

 つい最近手にした日本リウマチ友の会発行の『2000年リウマチ白書・リウマチ患者の実態<啓発編>』を通読して以来,いささか複雑な気持ちが続いている。

 白書中の「リウマチの治療」の章に“主治医・薬・治験”のセクションがあり,ここに本邦のリウマチ治療の現状が集約的に示されていて,種々の問題を提起して来ており,その解決が要請されていると思えるからである。本稿では,特に主治医に的をしぼって話を進めていきたい。

 アンケートに答えられた11,212人の「友の会会員」の83.8%は「リウマチ医」を主治医としており,その内訳は内科系33.1%,整形外科系49.8%,リハビリ系0.9%と整形外科医がほぼその半数を占めている。昔から『関節に関する問題を取り扱うのは主として整形外科医である』から,この数字は容易に首肯できるものであろうが,内科系のリウマチ医が約1/3を占めて ‘健闘' していることに,いささかの感慨を覚えている。
 (主治医の診察)の項では,そのタイトルのすぐ下にわざわざ白書の編集者より『主治医の手当て(触って診る)を望む』と特別書きが付けられているが,その期待に応えて「全身を診てしっかりと手当てをしている」のは35.5%に過ぎず,「悪い関節を主に診ている」医師が最多の46.3%,「初診時だけ診る」のは12.5%,「一度も触診なし」の(完全診察放棄型)が2.8%,「リハビリだけ」が0.6%という内訳であった。

 多忙な外来である。“今日はどこが悪いの?”“先生,ここ1週間ほどは右膝が腫れてきて,痛くて,痛くて……” “ドレドレ,そこのベッドに上がって膝を出して見せなさい。”患者の右膝にせわしなく手を触れてみて“うーん,かなり水が溜まっているねー。お注射をして楽にしましょう!”

 診察室に入ってから,ものの数分間も経たない内に総ては終わり。適切なリハビリ処方・指導が今なされたらその機能不全状態を救いうると思われる,拘縮の始まりかけた両肩関節に触れることはもとより,注射処置したばかりの膝関節を動かしている大【腿】四頭筋が萎縮し,同関節の屈曲拘縮も始まっていて現時点でしっかりとしたリハビリ訓練を必要としているのに,そういった事は何ら顧慮されることなく眼前の患者の症状を緩和することのみに終始して,“ハイ,次の方!”であろう。

 でも,まだ関節に触り,その諸問題に少しでも対応しようとする姿勢が見えるだけ,ましと言えようか? 「一度も関節に触れないか,触れても初診時だけ」の10数%の方々が大問題である。

 筆者も学生時代や本邦での研修期間中に,関節に関するPhysical Diagnosisの方法について教わった記憶は全く無い。たまたま米国流の教育に接する機会に恵まれて,そこで指導を受けながら自己なりに努力・研鑽を積んで,ようやく何とか関節のstatusがとれるようになったという経験があるので,我が国で少なくとも「リウマチを診ている」証である『リウマチ認定医』の称号をお持ちの方々も,筆者と同様に自己学習し,関節に触れながらjoint statusの取り方に習熟してきておられるものと理解していたが,「実態はさにあらず」ということを,このところいやというほど知らされている。この間の事情については色々なところで述べてきている↑1,2)↑が,関節の状態が全く把握できない,特に『内科系』のリウマチ医の方々は臨床の場で一体なにを ‘診て' おられるのであろうか? かって,この件についてさる高名な方に質問申し上げたことがあるが,「なに,(患者の関節に触ることが出来なくっても)関節の痛みを取りさえすればいいんだろう?」と返答されて,絶句した記憶がある。「それが,貴方のリウマチ診療ですか? 対象は関節の病ですよ。関節が全く診れない・把握出来ないのに“早期RAの診断基準”云々とは自己撞着も甚だしい!関節が診れなくてRAを語る―それは騙(かた)りではありませんか?」と言いたいのを辛うじて抑えながら…。自己を「全身の多発性関節炎を有するRA患者」と想定して,その立場を逆転してみればそんな無責任な発言はとても出来るものでは無く,問題のある関節の医学的対処に懸命になるはずであり,そのためにも自己研修に励み続けるはずである。

 整形外科サイドより,「内科から関節手術を目的として外科サイドへRA患者を送ってくるタイミングが遅すぎる」旨のクレームがしばしばなされてきている↑2)↑が,関節の症状・機能が全く掴めない(関節のレ線写真も撮らない・読めない)現状では当然の帰結であろう。病変が進行し,歩行困難がひどく高じての紹介で有れば,閻魔大王から「遅すぎる!」と怒られるのは当然である。

 今夏より,遅ればせながら『関節所見の取り方―実技研修の会』を当院で開催しようとしてきている。我々とて多忙な毎日で,始めから充実した内容のものになるとは思っていないが,「関節所見を取る」上での“道標”となるものをお伝え出来れば──と考えている。とにかく,『関節を自分の手で触る』ことしか上達の道はない。

 米国ではここ数年来,さる製薬会社の援助のもと,“RA患者自身が教師となって医師やパラメディカル・スタッフに「関節所見の取り方」を教えるPatient Partnership↑TM↑というプログラム”が動いてきており,大好評の由である。我が国でも上述した「日本リウマチ友の会」とタイ・アップしてこれを全国的に押し進めるべく,諸準備がなされてきていることをお伝えしておきたい。

 臨床の場での診療技術のボトム・アップが今日ほど切望されているときはない。股関節以外は,体外からすべて触れることの出来る『全身の関節』の状態を的確に把握し,その病状に対処できて,はじめて「リウマチ認定医」であろう。解剖の成書を伴侶として,数ヶ月も関節に触れ続けていれば,自然に新しい世界が眼前に開けてくる筈である。


文    献

1) 高杉 潔:RheumatologyのABC(イロハ)―それは関節を「診る」ことです―.臨床リウマチ8:1〜3,1996
2) 高杉 潔:シンポジウム5.RAにおける手術の必要性―内科医との連携のために―,6.内科よりみた手術の必要性とタイミング―一内科医の私見―(抄録).第44回日本リウマチ学会総会・学術集会,リウマチ40:217,2000

著者紹介
 1963年 岡山大医学部卒業
 1971年 同大医学部内科系大学院卒業
 1963年 米国横須賀海軍病院 インターン
 1964年 岡山大医学部第2内科 大学院生
 1966年 Yale University clinical fellow
 1969年 岡山大医学部第2内科 大学院生 1971年 同 医員
 1973年 岡山大温泉研究所内科部門 助手
 1982年 同 助教授
 1983年 道後温泉病院 理事長(現職)
主要研究テーマ:RAの臨床(特に続発性アミロイドーシス)


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