T.は じ め に
リウマチ学Rheumatologyは,リウマチ性疾患を研究する学問である。一口にリウマチ性疾患といってもその中に含まれる疾患の数は多い。しかもリウマチ性疾患といった場合,一般に関節を主病変とする病態であると理解されるが,わが国においてリウマチ性疾患という名称そのものが医学用語として一つのentityをもって使われていない。たとえば最新医学大辞典(第2版,医歯薬出版,1999年)にも内科学用語集(日本内科学会編,第5版,医学書院,1998年)にもこの用語は掲載されていない。つまりcardiac
disease,pulmonary diseaseはあってもrheumatic diseaseの記載はないのである。さらにいうなら日本内科学会では内科学を9分野に分けているが,リウマチという分類はなく,アレルギー・膠原病となっている。
米国ではrheumatic diseaseという名称は確立されており,ACR(American College of Rheumatology)の分類にみるごとく,この用語は定着している。またPostgraduate
Resident CourseのプログラムにもRheumatologyは研修コースとして確立されている。
むしろわが国で繁用されている膠原病という名称は使われず,connective tissue diseaseとして rheumatic
diseaseの中に位置づけられている。
わが国においてリウマチという用語に混乱がみられたのは,明治維新後のドイツ医学採用と関係があるのかもしれない。ドイツリウマチ対策協議会のGelenk-Rheumatismusの分類によれば,神経痛,筋肉ロイマなども含まれていたため,単なる関節痛,神経痛,肩こりなどもリウマチとして誤解されたようである。一般の間でも農夫や工場労働者などでみられる休養すれば治るような関節痛もリウマチと呼んですまされていた時代もあった。
第2次大戦後,わが国に米国医学が導入され,リウマチ学も大いに発展した。確かに,研究面においても,診療面においてもわが国のリウマチ学は【遜】色のないものとなった。しかし先にのべたリウマチ性疾患という用語に拘泥しなくても,わが国の医師養成過程におけるリウマチ学教育の現状を俯瞰してみることは必要であると思われる。
U.リウマチ学の概念とその学問体系
リウマチという言葉は,ギリシア語のρεν〜μαに由来し,英語のstream,flow「流れ」を意味し,AD1〜2世紀の頃に登場したという。ヒポクラテス(BC4世紀)が用いたカタルcatarrhも「流れ落ちる」であるから同義に使っていたのかもしれない。当時の体液病理学説では,脳からの体液の流れによって痛みが生じると考えたといわれている。しかしリウマチとして古くから挙げられていたのは,リウマチ熱,痛風,変形性関節症の3疾患であった。
ヒポクラテスがヤナギ(salix)の葉や樹皮を解熱鎮痛に用いたのはリウマチ熱であったらしい。
痛風もすでに紀元前のギリシア時代に知られており,gutta(drop)といわれ,これが現在のgoutに転じたという。これも痛風を起こす体液が滴{したた}るという意味であり,guttaが足に溜るとpodagra,手首だとchiragra,膝だとgonagraといったという(中世医学)。
現代のリウマチ性疾患の代表とされる慢性関節リウマチの歴史的登場はA. J. Landre´-Beauvaisによる報告(1800)が初めてであるとされている。彼は痛風とこの疾患とを区別したが,さらにB.
C. Brodieがこの疾患を明確にした(1819年)。
Rheumatoid arthritis(RA)という名称はA. B. Garrodにより報告されたが(1858年),彼はそれまで「リウマチ性痛風」といわれていた関節疾患を,リウマチでもなく痛風でもないと結論づけてこの病名を提唱した。ここでいうリウマチは,今日の急性リウマチ熱を指しているものと思われる。
事実,それまでリウマチというとリウマチ熱と痛風が主であり,リウマチと関節炎を結びつけたのはA. Boordeであるという(1547年)。
17世紀になってリウマチは,関節炎と全身に病変があることがG. Baillouによって報告され(1642年),次いでかの有名なT.
Sydenhamがそれまでのリウマチという漠然とした疾患概念を整理した(1685年)。すなわち痛風と有熱性多発関節炎(現在のリウマチ熱)を独立させ,さらに慢性化する関節炎では手指に瘤ができて隆起し,四肢が動かなくなる場合もあると記した(これが現在のRAと思われる)。さらにこの他にSt.
Vitus 'dance(舞踏痛,chorea)についても論じており,その上,ヒステリー性疾患の中に筋痛,関節痛があると触れているのは,一部に今日のfibromyalgiaの存在を認めていたのかもしれない。
このようにリウマチ性疾患の歴史を繙くとこの病気は紀元前からその存在は知られているものの,単一の疾患でないだけにその疾患概念は漠然としてきたことは否定できない。Rheumatoid
arthritisという名称も150年以上も前に提唱されていたにも拘らず,アメリカリウマチ学会が採用したのは約100年過ぎた1941年であったということもこの辺りの事情を物語るものである。因みにわが国では,RAをそのまま和訳せず,慢性関節リウマチといっているのは周知のとおりである。
1942年にKlempelerが膠原病なる概念を提唱し,新たにSLE,PSSなどがリウマチ性疾患の中に加わった。それまでリウマチという概念は主として関節疾患として把えられてきたが,ここで確実に全身性疾患としての認識が必要となったのである。従来のリウマチ医が,骨・関節,筋肉,腱など運動器官の診療を主として行ってきただけではすまされなくなり,全身疾患としての把握が要求されるようになった。
病理学的にも炎症性,非炎症性だけでなく,原因的にも感染,代謝異常,変性などの他,免疫異常といった新しい病態異常に関する知識が加わることになった。
リウマチ専門医(Rheumatologist)という用語は,1940年にB. Comroeが初めて唱えたとされるが,このとき対象としたリウマチは現在のリウマチ性疾患とは大いに異なっている。しかし,リウマチ性疾患を診るためには特別な知識と訓練が必要であると考えたことは今も昔も変わらない。とくに膠原病がリウマチ性疾患において主要な臨床上の位置を占めるに至った現在,内科,整形外科のみならず,皮膚科,眼科,耳鼻科,リハビリ科など広い範囲の知識が必要となった。その意味からもリウマチ学という学問体系のさらなる確立が必要なのである。
その意味において日本リウマチ学会・認定医制度委員会の提示したリウマチ認定医研修カリキュラム(1999年3月改訂)は,わが国のリウマチ学の研究・教育の推進,診療水準の向上への指針を示すものである。しかもそれは学会認定医制協議会で検討されている横断的・generalな性格を持つ領域群として位置づけられるようだが,アレルギー疾患と同様,複数の診療科に跨るので今後の論議が必要であろう。
V.卒前学部教育
わが国の医学部教育でリウマチ学がカリキュラム上どう位置づけられているかを調べてみた。
全国医学部長・病院長会議「医学教育カリキュラムの現状」(平成9年度版)によると,全国80医科大学でリウマチ関連授業の教科目(学科名)の名称をみると,アレルギー・リウマチ(1大学),collagen・リウマチ(1大学),アレルギー・膠原病(5大学),アレルギー・免疫(3大学),感染・免疫(4大学),感染・膠原病(1大学),免疫病学(1大学)などである(計16大学)。アレルギー・リウマチあるいはcollagen(原本どおり)・アレルギーと記載している大学もリウマチ学と独立しているのではなく,アレルギーと抱き合わせであり,その授業時間数も,22.5時間,6時間であった。これをみてもわが国ではリウマチ学という名称が,医学生時代からいかに馴染みの薄いものであるか窺われるのである。
一方,残りの大学も膠原病あるいはリウマチの授業をしていないのではなく,実際は内科学,整形外科の中でユニットとして授業が行われているものと思われる。ユニットとはコース(学科)の中の教育単位で通常は10―20時間程度とされているが,問題は内容であり,その質である。
とくに平成3年大学設置基準の大綱化により,医学部が6年一貫教育制となり,おのおのの大学は,カリキュラムの大幅改定を行っているはずである。
さらに最近の医学部のカリキュラムは,これまでの講義偏重から臨床実習重視に移行しており,そのこと自体は評価されるが,実習の場としての大学病院が特定機能化し,高度先進医療対象の患者,あるいは診断のついた重症患者を医学生が診る機会が多い現状では,医学部卒前教育でリウマチ性疾患を学ぶ機会が乏しくなるという懸念が生じてくる。卒前学部教育においてリウマチ学の学習のためのカリキュラムの抜本的見直しがせまられる故因である。とくに大学病院で外来実習が行われていない現状では,診断のついた患者を病棟で診る機会はあっても,初診患者を外来で診断する機会はない。これはリウマチ性疾患に限ったことではないが,わが国の大学病院の臨床実習にみられる最大の欠陥であろう。そうした意味から,医学生が大学附属病院だけでなく市中関連病院や個人診療所で臨床実習を行うことは歓迎すべきことであり,そうした場において,適切な指導医のもとでリウマチ性疾患を診る機会をふやすべきである。
一方,卒前学部教育の最終的総括評価として医師国家試験がある。医師国試は医学生が,医療の現場に第一歩を踏み出すために必要な妥当な範囲と適切なレベルを持っているか否かを問うものである。その内容を具体的な項目によって示したのが医師国試出題基準(ガイドライン)である。つまり医師国試が重箱の隅をつつくような奇問や,医学生では答えることのできないような難問を出題しないよう出題者のために用意された基準である。この出題基準でリウマチ性疾患がどのような位置づけにあるかをみてみると,13章に分類されている医学各論の中の第XI章に「アレルギー性疾患・膠原病・免疫病」とあってリウマチ性疾患という用語は見出せない。この章の大項目をみると,1.
アレルギー性疾患,2. 膠原病,3. 膠原病近縁疾患,4. 原発性免疫不全症,5. 続発性免疫不全症であり,このうち膠病病と膠原病近縁疾患が,リウマチ性疾患に該当する(表1)。因みに痛風は,第]章内分泌・代謝・栄養疾患の中の核酸代謝異常に,変形性関節症は
第\章精神・神経・運動器疾患の非感染性骨・関節・四肢軟部疾患に入っている。
なお,この医師国試出題基準の分類について,これはこれでわかりやすいという医学生の意見があることも紹介しておく。つまり,病因別(膠原病と痛風は異なるというのである),臓器器官部位別の方がわかりやすいというのである。
飜って米国National Boards, PartUをみると,OBGY, Pediatrics, Internal Medicine,
Surgery, Psychiatry, Preventive Medicine, Practice Testとあり,この中のInternal
Medicineの中にRheumatologyが明確に独立している。
事実,たとえば名門 Johns Hopkins大学医学部内科系診療部門にはRheumatolygyがあり,担当教員(講師以上)12名が診療,教育に従事している。Rheumatologyがいかに歴とした存在であるか窺えるのである。
現在わが国の医学教育は大きな曲り角にあるといわれている。とくに新しいカリキュラムへの改革はどこの大学でも進行している。クリニカルクラークシップの導入,問題解決型スモールグループ学習,さらには臨床能力の向上をめざしたOSCEの導入など,教員も学生も目まぐるしいほどのinnovationである。しかも大学病院は内科講座制から診療科別へと変わっていく。リウマチ診療科が創設されて診療,研究は独立して行えても,卒前教育の講義・実習などをどのように行っていくか容易なことではない。
最も重要なことは,卒前教育において卒業の時点で学生はリウマチ学をどこまで学ばねばならないかその到達目標の設定である。卒前教育のカリキュラムの中にリウマチ学を確立し,その一般目標(GIO)と個別行動目標(SBO)を具体的に提示しなければならない。しかも学習方略として外来も加えて緻密に立案し,評価はOSCEを意識した実地試験も必要である。それには教員数の確保と教員研修(リウマチ学会指導医),診療科のintegrated
curriculum(たとえばリウマチ内科と整形外科,皮膚科,眼科さらには基礎医学)そしてそのcoordinationなどが重要な鍵となるであろう。
W.卒 後 教 育
1.臨床研修
昭和43年,インターン制度の廃止に伴って,臨床研修制度が見切り発車の形で始まった。義務ではなく努力規定であるこの臨床研修は,その後多くの議論を呼んできた。昭和48年に厚生省医師研修審議会が「臨床研修の充実」という建議書を出し,関連する診療科を広くローテートすることを唱えたが,研修医の8割は大学病院で研修をし,それがほとんどストレート研修という実情であった。昭和53年に医師研修審議会は「プライマリケアを修得させるための方策」と題する意見書を出し,最も普通にみられる病気や事故による外傷への対応,救急の初期診療ができることなどを主張した。これはcommon
diseaseへの適当な対応ということであるから,first visitの患者の中でリウマチ性疾患にどう対応できるかということも含まれるわけであるが,大枠が示されたにすぎなかった。
平成元年6月,医師研修審議会は医療関係者審議会臨床研修部会となり,卒後臨床研修の目標を提示した。それは臨床医として期待される医師像ともいうべきもので,初期臨床研修修了の時点ではプライマリケアを修得すること,generalistになることが目標であるとした。したがってそこにはリウマチ学などのsubspecialityについては何ら触れられていない。
平成2年11月,医療関係者審議会臨床研修部会・臨床研修改善専門委員会は,「卒後臨床研修の今後の改善について」という報告書を出した。そこには研修施設,指導医,研修医の処遇,評価など広い範囲にわたって今後の改善すべき点が盛り込まれているが,注目すべきことは,学会認定(専門)医制度との整合について述べていることである。つまり臨床研修から学会認定専門医制にどう乗り移るかという問題であるが,とくに各分野別について具体的には触れられていない。
この卒直後2年間の初期臨床研修制度は,上に述べた厚生省以外の多くの機関(医学教育振興財団,日本医学教育学会,日本学術会議,日本医師会など)からも提言,進言が出されて今日に及んでいる。平成6年日本学術会議の報告書「臨床研修の義務化」を契機とし,臨床研修が必修化することに至ったのは周知のとおりである。
以上わが国の臨床研修の動きについて長々と説明したのは,わが国の初期臨床研修ではプライマリケア医,generalistを到達目標とすることが念頭に置かれているのは妥当であるとしても,プライマリケアの中のsubspecialityの基礎の位置づけが検討されていないことに注意を喚したいからである。もとよりリウマチ学専門医としてのトレーニングは初期臨床研修のあとで行うのは当然である。しかしプライマリケア医として心筋梗塞,胃十二指腸瘍,糖尿病などに対応できねばならないように,プライマリケア医として慢性関節リウマチ患者の適切な診療ができなければならないのである。
初期臨床研修医が,first visitの慢性関節リウマチをはじめとしたリウマチ性疾患患者に適切に対応できるか,現状では疑問といわざるをえない。その意味で初期臨床研修カリキュラムも見直すべきであり,subspecialityへの橋渡しを意図した具体的内容を示した臨床研修プログラムが必要である。卒前学部教育のクリニカルクラークシップによる臨床実習で,リウマチ学を学習してきた学生に対し,たとえば認定内科医あるいは認定内科専門医に向けてのリウマチ疾患臨床能力を継続的に身につけるよう指導しなければならない。わが国の初期臨床研修カリキュラムの整備も焦眉の急である。
2.後期臨床研修と専門医教育
臨床研修というと通常は卒直後の2年間のいわゆる初期臨床研修を指す。しかし最近ではそのあとシニアレジデントあるいは後期臨床研修のコースを置く病院がみられるようになった。これは各専門学会の認定医制度を意識したためであると考えられる。
たとえば日本内科学会の場合,教育病院における3年間の研修(うち2年は初期臨床研修)ののち,研修記録の審査と資格認定試験による合格者は「認定内科医」となる。この試験問題は内科9分野から出題されるが,リウマチ関連分野はアレルギー・膠原病となっている。
この時点においては,内科医として必須の基本的知識と技能を修得することと内科医として独立して日常診療を遂行できることが目標とされている。したがって「認定内科医」は,内科の各専門領域(subspeciality)の専門医をめざす者にとって,その基礎となる必須の資格と理解されており,ほとんどの専門領域の専門医制度に組み込まれている。いわゆる二段階方式といわれるものである。
このあとさらに教育病院で2年間の研修を行って(合計5年以上),同様に診療記録の審査と資格認定試験により「認定内科専門医」が認定される。この段階は内科のすべての領域において高度の知識と技能を持った内科の専門医と理解される。したがって各専門領域,たとえば循環器内科専門医は,この認定内科専門医の循環器学の知識と技能を越えたところに位置している。
リウマチ学においても例外でない。ただリウマチ学においては,内科学と整形外科学の2つの学問領域に跨る部分が少なくないのでやや複雑なものがある。
周知のように日本リウマチ学会の認定医制度は昭和62年11月に発足した。認定医は5年以上学会の会員で,教育施設で3年以上あるいは50症例の症歴抄録,そして学会総会参加,論文執筆(筆頭者),講演発表(筆頭演者),その他の関連学術集会参加などで30単位以上の取得が条件となっている。
リウマチ学会ではこの他に指導医も設定しているが(昭和63年12月),これは学会評議員で,かつ認定医であり,10年以上の会員歴,教育病院に勤務,5年間に10以上のリウマチ学の業績を持つことを条件とし,認定医制度委員会で認定される。リウマチ学会指導医は,リウマチ診療医の育成にあたるわけであるから,長年にわたるリウマチ診療の識見と経験が十分備わっていると考えられるので,ここでは論ずる必要はないと思われる。
問題は学会認定医の育成についてである。この点について日本リウマチ学会は,認定医研修カリキュラム(1990年7月,1999年3月改訂)を発表している。この中でリウマチ認定医は,リウマチ診療に関して一般医師ないし他科の医師より水準の高い知識と技能を備えた専門医であることを謳っている。そしてこのカリキュラムに基づいて研修をすれば,リウマチ認定医資格試験で求められる基本的知識は習得できるとされている。とくに特筆されることは,学会認定医受験者の中には内科,整形外科など異なる診療科での初期臨床研修修了者が含まれるので,リウマチ診療に重要な両科のカリキュラムの欠落を防ぐための配慮が払われていることである。
その内容をみると,内科医に対しては,リウマチ性疾患の脊椎,四肢骨,関節など筋・骨格系の基礎と臨床,および滅菌,消毒法,局所麻酔と外科手技などが記載されており,一方,整形外科医に対しては,免疫学,遺伝学などの基礎医学的知識から全身症状,臨床検査の見方,さらに全身性結合組織病に至るまで隅なく綱羅されている。
しかし教育というものは,カリキュラムの目標を整備しただけでは達成されるものでない。これは何もひとりリウマチだけの問題ではなく,わが国における専門医養成のすべての分野でいえることである。
高邁な学習目標を掲げても,それに見合った方略は適切であるのか,そしてその評価が果たして適切に行われているのか,という問題がある。まず挙げられるのは方略としての教育施設である。学会では教育施設を規定しているが,他診療科との整合性の上に立脚したリウマチ診療が行われているかどうか,外来診療,病棟診療の教育上の比率は適切かどうか,症例の種類・重症度に偏りはないか,など検討すべき点は多い。教育スタッフは当然学会指導医ということになるが,リウマチ診療の知識と技能は十分でも教員,すなわち教育者としての技量についてはどうかという問題もある。これは次に挙げねばならない「評価」と関係する。専門医としてのトレーニングを受けている研修医の診療の質をみるために研修期間中に形成的評価を行うことも大切である。認定医資格試験は総括的評価である。そうした意味から,技能・態度の評価も考慮しなければならない。さらに評価の面から他診療科との整合を考えた場合,内科と整形外科のみならず,リハビリテーション科,皮膚科,眼科などとの連携も必要であるし,さらに看護婦,薬剤師,OT,PTなど他職種とのチーム医療の問題も考えねばならない。質の高い学会専門医養成をめぐる教育学的問題は多く,さらなる解決への努力が必要となる。
こうした臨床系医学会を中心とした専門医制度は,いうまでもなく医療の水準を高めるためのものであり,さらに患者からみて医療施設や医師個人の専門分野を知って診療を受けやすくするためのものである。古くからわが国の患者の受療行動は,人によってまちまちであった。ある者は個人の診療所へ行き,ある者は風邪でも大学病院を受診した。この幣害を除くため,一次医療(プライマリケア)と二次,三次医療を区別することが図られるようになった。
リウマチ患者がまずプライマリケア医を受診し,そこで適切な治療を受け,軽快・治癒すれば,大変結構なことである。しかし軽快しない患者を専門医にいつ転医させるかということは,プライマリケア医の力量によるところであるが,プライマリケア医から紹介されてきたり,あるいは直接受診してきたリウマチ性疾患患者に質の高い医療を提供するのがリウマチ学会が認定する専門医なのである。因みに平成11年1月現在のリウマチ学会認定医数は2,496名である。
最近,日本学術会議第7部より「専門医制度の整備と専門医資格認定機構の設置について」と題する報告書が出された(平成11年11月29日)。それによると,わが国の諸学会の専門医制度は,学会によって規定や水準が一様でないので各学会の専門医制度を見直すために,国家的規模での専門医資格認定機構ともいうべき第三者機関を設置するよう提言している。
3.生涯教育
生涯教育という言葉を最初に提唱したのはPaul Lengrandで第3回ユネスコ成人教育推進国際委員会においてであった(1965年)。このときに用いた生涯教育の言葉の意味は,人間の教育は人生の初期に学校だけで行われるものでない。生涯にわたって行われるべきものであるということで,広く一般市民を対象としたものであった。
しかし専門職に従事する職業人が,その職務を全うするために,学校を終えたあとも継続的に生涯にわたって行う学習は,これとはやや趣きを異にする。
とくに医師の場合,国民により良い医療を提供するためには,急速に進歩する医学知識や医療技術を可及的速やかに修得しておくべき責務がある。しかし,それは他から強制されるのでなく,医師自らの自覚によって行われるべきものである。その意味において,医師の生涯教育は継続的教育continuing
educationといわれるわけである。
本稿で述べてきた卒後臨床研修も専門医教育も広い意味で生涯教育の一つに含まれる。しかし通常わが国の医師の生涯教育というと各学会の生涯教育講座や日本医師会生涯教育制度を指す。
各学会で行う生涯教育は,前項で述べた専門医制度がこれに該当するし,さらに設定更新のための単位取得のための学習が,継続教育そのものということになる。ほとんどの学会で更新の年限を5年とし,その間に所定の単位(たとえば内科学会50単位,リウマチ学会60単位)を取得しなければならない。その単位は年次総会講演会,学会生涯教育講座・セミナーなどへの参加,学会発表などによって取得することができる。
一方,日本医師会の生涯教育は昭和62年に制度化され,日医会員の生涯教育の推進を図ってきている。そのカリキュラムは平成4年に発表され,その後平成7年,平成11年に改定された。カリキュラムの内容は,医学的課題と医療的課題に二大別され,とくに平成11年の改定では,すべての臨床医にとって必要な基本的医療知識を基本的医療課題として重視した。そして,医学的課題は各専門学会で取り挙げる機会が多いが,医療的課題は日本医師会が中心になって行うこととした。確かに社会状況の変貌に伴い医療に対する社会のニーズを知ることは,臨床医にとって重大な関心事であり,リウマチ医といえども必須の学習すべきテーマといえよう。「国民の求める医療」,「生命倫理」,「ターミナルケア」,「脳死と臓器移植」,「新薬治験の倫理」,
「インフォームドコンセント」,「医療経済」,「医療の質」,「診療情報の開示」など,各分野の専門医が等しく学習しなければならない課題である。リウマチ診療医にとっても大切なテーマである。
X.お わ り に
リウマチ教育のあり方―その現状と問題点について述べた。現状を分析し,問題点を抽出することにより,そのあるべき姿は浮き彫りにされてくる。
現在の日本の医学教育の抱える問題点は数多い。これは何もひとりリウマチ教育に限ったことではないが,問題点の中でリウマチ教育をどう対応させていくかが大切である。
日本医学教育学会では,93ある日本医学会加盟の各分科会(各学会)に呼びかけて,学会教育委員会連絡協議会を開催してきた。筆者はこれまでそのお世話をしてきたが,そこでは各学会の教育関係担当者が一堂に介して,卒前教育では統合カリキュラムの先導的試行について,卒後教育では学会専門医制度による研修について情報を交換し合っている。
また「医学教育者のためのワークショップ」や「臨床研修指導医ワークショップ」などが行われ,さらに各大学や病院でその伝達ミニワークショップも盛んである。こうした活動によりわが国のリウマチ学教育も今後さらに充実していくことが期待される。
著者紹介
1959年 東京慈恵会医大卒業
1964年 同大大学院修了
1972年 同大内科講師
1983年 同助教授
1991年 同教授
1999年 国際学院埼玉短期大学副学長(現職)
総合川崎臨港病院内科(現職)
東京慈恵会医大内科客員教授(現職)医学教育関係
現 在 日本医師会・生涯教育委員会委員長
日本学術会議第7部・医学教育研究連絡委員会幹事
日本医学教育学会・運営委員
主要研究テーマ:
膠原病・リウマチ疾患症例の臨床的解析,膠原病初期診療における臨床検査の検討,医学教育
表 1 XI アレルギー性疾患,膠原病,免疫病
大 項 目中 項 目
1 アレルギー性疾患
2 膠原病 A 全身性エリテマトーデス
B 抗リン脂質抗体症候群
C 強皮症
D 皮膚筋炎,多発筋炎
E Sjo¨gren症候群
F 混合性結合組織病
G 重複症候群
H 結節性多発動脈炎
I アレルギー性肉芽腫性血管炎
J 顕微鏡型多発血管炎
K Wegener肉芽腫症
L 側頭動脈炎
M リウマチ性多発筋痛症
N 大動脈炎症候群〈高安病〉
O 過敏性血管炎
P リウマチ熱
Q 慢性関節リウマチ
R 悪性関節リウマチ
S 若年性関節リウマチ
T Reiter症候群
3 膠原病近縁疾患 A 強直性脊椎炎
B サルコイドーシス
C Beh〓et病
D Weber-Christian病
E 川崎病〈小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群〉
F Goodpasture症候群
4 原発性免疫不全症
5 続発性免疫不全症
厚生省・医師国試出題基準 (平成9年版) より抜粋。
1,4,5の中項目および小項目は省略した。 |