今年度中にもヒトゲノム全遺伝子配列が確定されようとしている。我々はこれらの遺伝子を使用し,疾病の治療および予防の方法として,遺伝子発現プラスミドの医学分野への応用の研究を行っている。DNA発現プラスミドは,合成が簡単で大量に作製でき,一たん作製されれば品質の変化はない。またその発現は,上手に作製すれば生体内で自己の蛋白として産生されるため,異物原性が低い。その発現はゆっくりであるが,約2〜4週間にわたって蛋白が発現し続けるので,タンパクの分解する半減期の短いものでは,極めて有効な治療法と思える。1990年初頭にUlmer,Wolfらは,DNAプラスミドを動物に注入させ,それを発現されることを見出し,ワクチンとしての応用,遺伝子治療への応用を考えはじめてきた。しかし,それから10数年経ち,DNAプラスミドの安定性,およびより有効な注入法,あるいはプラスミドなどの研究が急速に発展し,現在ではそれを使用して,遺伝子治療あるいはワクチンとしての応用などが臨床試験にも入っている状況であり,それらを含めて最近のDNAプラスミドの進歩について述べる。
我々が,現在まで検討しているものの一つはDNAワクチンを使用したエイズワクチンの開発である。特にアフリカではエイズの罹患状況は深刻で,治療薬の開発とともに安全で有効なワクチンの開発は極めて大切である。そこでこのDNAワクチンは,生ワクチンと同様,細胞内タンパクが合成され,その中でclass
1抗原と抗原ペプチドが結合し,そのAPC細胞がT細胞に抗原を提示させ,強い細胞障害性T細胞(CTL)の活性を生じさせるものであることが判明した。
HIVのどの部分のDNAを使用するか,我々は長い間研究したが,HIVのエンベロープの一部およびgag,polの一部をそれぞれ合成して,multicomponent
vaccineとした。一方,各々のタンパクのCTLエピトープや,抗体産生エピトープは,clade C,E,B由来のものを使用した。したがって,我々のDNAワクチンはいくつかのcladeに有効なmulticomponent
vaccineと思われる。さらに最近,ヒトでよく使用されているコドンがウイルス由来のコドンとは違うことに注目し,ヒトでよく使用されているコドンを使用したウイルスのDNAを合成し,それをDNAワクチンとして使用している。これら発現プラスミドは,ヒトの体内で発現するもので,ヒトの体内に多く存在するコドンを使用した方が効率的であると考え,研究を行いこれを確認した。現在,我々が新世代DNAワクチンと呼んでいるものは,HIVのウイルスそのもののDNAではなく,humanized
codon usageに近付けたDNAを合成することによって,より効率的なものを作製しているわけである。また,Merck社の報告によると,ユビキチン化遺伝子をCMVプロモーターの上流に結合させ生じてきたウイルス由来のペプチドが,ユビキチンによって効率的に切断され,それがT細胞への抗原提示能を数十倍上昇させているとのことである。そこで我々もCMVプロモーターの上流にユビキチン遺伝子を挿入し,現在その新しく作製したDNAワクチンが免疫原性を強めるか否かの検討も行っている。さらにIL-12あるいはGM-CSFの発現プラスミドを同時に注入することにより,強いTh1免疫反応がみられた。このようにサイトカインを発現プラスミドの形で注入すると,少なくとも2週間程度はIL-12あるいはGM-CSFなどが徐々に体内で産生され,分解されても次々にそれらのサイトカインが新しく発現されるために,リコンビネントタンパクのような一過性の作用ではなく,長期間注入したサイトカインの作用が発現することがよい点であることが分かった。それらDNAワクチンが,サルあるいはSCID/huマウスにおいてHIV-1の予防効果を示すことを明らかにした。
次にこれら発現プラスミドの効用を考え,IL-12のサイトカイン発現プラスミドを自己免疫発症モデル動物の,(B/W)F↓1↓マウスに投与したところ,蛋白尿あるいは抗核抗体の出現が著明に抑えられた。我々は現在行ってはいないが,リウマチなどの場合,特定のサイトカインを発現させ,特定のサイトカインを抑制させることが,このようなプラスミドの注入によって可能となり,治療法の一つとなりうると思われる。我々の現在得られた実験結果では,老化と共にTh2に傾いていく(B/W)F/1マウスの免疫系が,IL-12発現プラスミドを投与することによりTh1にシフトした。その結果としては,抗核抗体などの出現が抑制されたため,症状が改善されたものと思われる。これらの方法は,アレルギーや,喘息,種々の過敏反応などの治療効果を増強させるにはよい方法かと思われる。
更に,下肢部虚血性ラットを作製し,それに血管新生因子(VGF)の発現プラスミドを注入したところ,その末梢部に血管の著明なる新生が認められ,これも治療法の一つとして有効と思われた。このような研究方法は,慢性関節リウマチには,極めて有効と思われる。慢性疾患の場合はさらにアデノ随伴性ウイルスベクター(AAV)等常染色体にDNAを組み込ませるなどしてサイトカインなどの遺伝子を挿入することによる治療法も考え行っている。
我々の検討してきたように,発現プラスミドを使用した臨床医学における応用等が広まってきている。さらにその発現プラスミドを増強させる方法は,経皮的,経肛門的,経鼻的等,種々の投与方法による,患者のコンプライアンスを考えた治療方法等も急速に進歩するものと思われ,この分野における,最近の進歩を含めて紹介したい。 |