T.は じ め に
全身性強皮症(systemic sclerosisまたはscleroderma,以下SScと略)は,自己抗体産生,末梢血管障害,病的線維性硬化を特徴とする疾患であるが,冒される臓器の種類およびその病変の進行速度や程度は患者ごとに異なることはいうまでもない。現在に至るまでに,本症に関する膨大な量の臨床データが蓄積されており,それらに基づいた診断方法が確立され,罹患臓器とその重症度を予測する因子が明らかにされてきた。臨床医学に「絶対」や「100%」は存在しないが,抗topo-T抗体,抗セントロメア抗体などの自己抗体の有無と皮膚硬化の範囲がSSc自体の予後を予測するという観点から重要な因子であると考えられる。
本症診断の第一歩は皮膚硬化の有無を正しく評価することである。発症初期では皮膚硬化が明確でないこともあるが,その他にも本症に頻度の高い着目すべき皮膚変化が存在することが多く,診断の契機となり得る。本稿では,皮膚科医の立場からSScを論じてみたいと思う。
U.発 症 機 序
本症の発症機序についてはいまだ確立されたものはない。皮膚は容易に生検できる臓器である。発症早期から晩期に至る各病期の患者皮膚が組織学的に検討された。病初期では真皮の間質性浮腫(コラーゲン線維束同士の解離)が目立ち,次いで真皮血管周囲性の単核球浸潤↑1,2)↑,真皮下層から始まる膠原線維束の均質化が起こり(図1),その変化は真皮全層へと波及していく。ただし,全例において全層に及ぶ変化が起こるとはかぎらない。なお,本症の病変部では線維芽細胞の増加や血管の増生は認められないことに留意すべきである。このような変化を示すのは皮膚潰瘍の修復過程で形成される肉芽組織で,「線維化(fibrosis)」と呼ばれる。SScの「硬化(sclerosis)」とは区別すべきである。したがって,本症の発症機序に関してさまざまな増殖因子,インターロイキンの関与が指摘されてきたが,病変部皮膚の組織学観察結果は,少なくとも線維芽細胞増殖亢進作用や血管新生作用のあるものが本症の病変形成に寄与している可能性は低いことを示唆している。
このような皮膚の病理組織学的検索から,以下のような発症過程が推定される。すなわち,何らかの因子(X)が血管内皮細胞を傷害すると,血小板の凝集が起こり,血小板や内皮細胞からは種々のサイトカイン,ケミカルメディエーターなどが放出される。これらの液性因子はマクロファージ,リンパ球の活性化を引き起こし,これらの細胞は血管外へと遊走・浸潤する。そして,これらの細胞が直接あるいは間接的に線維芽細胞を活性化することによって一部の線維芽細胞のコラーゲン産生を亢進させ,病的線維化へと導くという説である。
“何らかの因子(X)”を解明することが今後の課題である。他方,一連の過程で最も重要な役割を果たすとして着目された増殖因子がTGF-βである。周知のごとく,TGF-βは線維芽細胞の細胞外基質産生亢進作用を有する↑3)↑。しかし,増殖亢進作用については実験条件によって異なることが知られている↑4)↑。実際,免疫組織化学やin
situ hybridization法によって,本増殖因子が病変部皮膚組織の線維芽細胞細胞や単核球に発現していることが証明された↑5,6)↑。しかし,その発現は発病初期には認められるものの,経過とともにその発現は減弱することが明らかにされた↑6)↑。この点に関して,五十嵐らは病変部皮膚のin
situ hybridization法の結果から,TGF-βによって誘導されるCTGF(connective tissue growth
factor)が線維芽細胞の細胞外基質産生を維持している可能性を示した↑7)↑。
他の臓器同様,ヒト皮膚の細胞外基質はつねに産生と分解が行われており,そのバランスの上に恒常性が保たれている。一般にSScでは膠原線維の過剰沈着が特徴とされ,それは膠原線維の産生亢進が原因と考えられてきた。分解系の異常に関する報告は少ないが,患者由来培養線維芽細胞のコラーゲナーゼ活性が低下していたとする報告もある↑8)↑。
本症の病変形成過程における肥満細胞の役割についてはさまざまな解釈がなされており,本症における役割は不明といわざるを得ない。肥満細胞が含有する種々のメディエーターが真皮由来線維芽細胞の増殖とT型コラーゲン産生に与える影響を検討したin
vitroの系では↑9)↑,tryptaseが細胞増殖とT型コラーゲン産生を亢進させる作用があることが報告されている。しかし,IgEで感作したヒト臍帯血由来培養肥満細胞を三次元構築を持つ線維芽細胞シート↑10)↑上に共培養して,IgEを加えて肥満細胞脱を顆粒させた場合,見事に細胞シートの構造は破壊されてしまうことをわれわれは見出している(投稿中)。肥満細胞が持つ個々のメディエーターの中にはfibrogenicな作用を有するものもあろうが,トータルな効果はdestructiveであると考えている。他方,SSc皮膚の免疫組織学的検討では,肥満細胞数が本症の初期では増加するものの,硬化期には減少することが報告されている↑11)↑。肥満細胞が腫瘍性に増殖した皮膚肥満細胞腫に線維化や硬化が認められないこと,肥満細胞が遺伝的に欠損したマウスでもブレオマイシンによる皮膚硬化が誘導可能なことから↑12)↑,肥満細胞が線維化あるいは硬化の過程にプラスに作用している可能性は少ないと考えている。
母体・胎児相互間の免疫担当細胞の相互移入により,同一個体に類遺伝学的背景を異にする2種の細胞が存在することをマイクロキメリズムと呼ぶ↑13,14)↑。SScに女性患者が多いことや,骨髄移植における慢性移植片対宿主病で強皮症類似の皮膚症状を来すことなどから,本症の発症にマイクロキメリズムの関与を指摘する論文が発表された。彼らはSSc女性患者末梢血液中にY染色体陽性細胞が高率に存在すること,in
situ hybridization法で患者硬化部皮膚浸潤細胞中にY染色体陽性細胞を証明した↑15,16)↑。しかし,男児妊娠中の母親の末梢血中のY染色体をPCR法で証明する方法を用いると,妊娠末期の女性では90%前後に↑12)↑,あるいは男児分娩20年以上を経た正常女性でも胎児由来細胞が存在することから↑13)↑,末梢血中に胎児由来細胞が分娩後も長期間存在すること自体は普遍的な現象であると考えられる。さらに当教室で,SSc以外の皮膚病変を有する男児分娩歴のある女性の病変部皮膚組織を検討したところ,薬疹では0%,扁平苔癬あるいは円板状エリテマトーデス皮疹部では30%前後にY染色体DNAを認めた(投稿中)。マイクロキメリズムがSScをはじめとするいくつかの疾患発症に真に関与しているのか,あるいは普遍的現象にすぎないのか,早晩決着がつくであろう。なお,妊娠末期の妊婦に発症するpruritic
urticarial papules and plaques of the pregnancyは長らく発症機序が不明とされていたが,本症においてはマイクロキメリズムが発症に関与しているであろう↑17)↑。
V.強皮症とHLA
HLAタイプの頻度は人種により大きく異なるが,特定のHLAタイプと本症との関連が指摘されている。桑名ら↑18)↑は日本人におけるSSc患者のHLAクラスUの遺伝子を解析したところ,SSc患者と正常人との間,すなわち皮膚硬化の有無で比較した場合には特定のHLAクラスU遺伝子の出現頻度に差はなかったが,患者を抗セントロメア抗体および抗topo-T抗体の有無で分類比較したところ,抗セントロメア抗体陽性患者群ではHLA
DR B1↑*↑0101,抗topo-T抗体陽性患者群ではHLA DR B1↑*↑1502の出現頻度が有意に高かったと報告した。われわれも当科通院中の患者について同様の検索を行ったが,彼らとほぼ同じ結果を得た(投稿中)。桑名らはHLAクラスU遺伝子は疾患標識抗体の産生には関与してするものの,皮膚硬化への関与はないだろうと結論しており,われわれもその意見を支持したい。
W.SSc硬化部の組織学的変化
定型的な硬化部では,表皮は菲薄化し,基底細胞層のメラニンは増加(basal pigmentation)している。また,真皮上層にはメラニンを貪食したマクロファージが散見される。このメラニン増加の機序の詳細は不明であるが,エンドセリンあるいは肥満細胞の関与が推定されている。メラニンが真皮内へ滴落する機序としては,血流量の低下による低酸素・低栄養による基底細胞変性,あるいは細胞性免疫を介する基底細胞変性(自己免疫機序による液状変性)などが考えられる。組織学的に明らかな液状変性を確認できることはないので,前者の可能性が高いと思われる。いずれにしても,このような組織学的変化は,しばしばdiffuse
cutaneous SSc患者皮膚のび漫性色素沈着,躯幹や四肢伸側の点状色素沈着・脱失として観察される。
真皮はその厚さを増し,汗腺や付属器が消失していることもある。最も特徴的な変化は,膠原線維束の「均質化」である。「均質化」は光顕レベルの表現で,膠原線維束の横紋構造が不明瞭となり,線維束同士が密着して見える変化である(図2)。これまで,病変部皮膚膠原線維の量的変化,すなわち膠原線維の増加は指摘されてきたが,質的変化に言及した報告はない。われわれは,T型膠原線維の成熟型3分子間架橋(histidinohydroxylisinonorleucine,
HHL)に着目した。HHLは膠原線維に安定性を付与し,40歳前後まで急速に増加し,以後は漸増することが知られている。われわれが開発した測定法↑19)↑を用いてSSc皮膚のHHL量を測定したところ,対照に比べてSSc皮膚では膠原線維1分子当たりのHHL分子数が約2倍に増加していることが判明した↑20)↑。この結果は,HHLの増加による膠原線維の分解抵抗性の獲得がその蓄積に関与している可能性を示唆する。
膠原線維束の「均質化」は慢性放射線皮膚炎や熱傷瘢痕などの組織でもみられるが,これらの疾患は臨床所見がSScとは異なるので鑑別は容易である。したがって,前駆病変を欠くにもかかわらず,組織学的に膠原線維の膨化あるいは均質化を来す疾患はSSc以外には存在せず,本症の診断確定に有力な検査法の一つである。
X.皮膚の病理組織学的検査の意義
通常,SScの皮膚硬化は手指末端から始まり,しだいに前腕,上腕,躯幹へと進行するが,患者が一様にこのような経過を【辿】るわけではない。Barnettは皮膚硬化が手関節までに止まる患者群(タイプ1),上腕までに及ぶ患者群(タイプ2),躯幹にまで達する患者群(タイプ3)の3群に病型分類した↑21)↑。現在広く用いられているLeRoyら↑22)↑が提唱したdiffuse
cutaneous SSc(以下,dSSc)とlimited cutaneous SSc(以下,lSSc)の2病型分類も皮膚硬化の範囲に基づいている。前者はBarnnettのタイプ3,後者はタイプ1と2に相当する。
臨床的に強指症,指尖潰瘍や瘢痕,前腕や躯幹の皮膚硬化などが明確である例の診断は難しくない。このような患者にとって,侵襲を伴う皮膚生検を受けるメリットは少ないといえる。研究的な目的を除き,当科で前腕の皮膚生検を行うのは,臨床的に手指・手背の浮腫性変化が主体で,SScの初期と他の疾患(浮腫性硬化症,慢性関節リウマチ,SLE,シェーグレン症候群など)との鑑別を要する例,レイノー現象,抗セントロメア抗体陽性などのSScを疑う所見はあるものの,手指の浮腫性変化や硬化が明らかではない例などである。前腕皮膚組織で特徴的な膠原線維の変化が確認できればSScと診断できる。SScの診断は種々の臨床所見と検査所見を勘案して総合的に行うことは当然であるが,SScの確定診断が必要なときあるいはSScを除外診断する必要があるときなどに皮膚生検を行う臨床的意義は高い。なお,皮膚生検は前腕の遠位1/3伸側で行う。手指や手背は外傷を受けやすい部位なので,生検部位としては適当ではないとされている。しかし,場合によっては手指や手背を生検部位に選ぶこともある。
アメリカリウマチ学会の診断基準案↑23)↑は,大基準:近位皮膚硬化,小基準:強指症,指尖瘢痕・潰瘍,両下肺野線維症である。これらは,特異度と感度もさることながら,日常診療での簡便性が考慮されており,特殊な検査や設備がなくとも診断が可能であるという点に配慮がなされている。たとえば,抗topo-T抗体はSScに特異性の高い抗体で,今日では診断,病型判定,予後の推定に欠くことのできない検査項目である。しかし,この基準が発表された当時は抗topo-T抗体の測定は特定の施設でしか実施できなかったために,この診断基準には含まれていない。抗topo-T抗体と同様,皮膚の病理組織学的検査は時間と経費がかかること,定型例では臨床所見から診断が可能であるという考えから,皮膚の病理所見がこの基準には含まれなかったのではないかと考えられる。
Y.皮膚硬化の臨床的評価方法
皮膚硬化の評価は,本症診断のためには必須である。特殊な装置などを必要としない「皮膚つまみあげ法」が簡便な方法として広く行われてきた。Rodnanら↑24)↑が初めて皮膚硬化をスコア化することを提唱した。すなわち,皮膚硬化の程度をnormal,slight
but definite,mild-moderate,moderately-severe,severeの5段階で分け,身体26部位について評価する。その後,イギリスからより簡便な方法としてmodified
Rodnan skin scoreが提唱された↑25)↑。この方法では評価部位が17か所,スコアもnormal,mild,moderate,severeの4段階となっている。この方法による皮膚硬化の評価に関しては,主観的要素を排除しきれてはいないが,本症患者を多数例経験した医師間での評価のバラツキは少なく,再現性もすぐれていたとされている↑26)↑。
本邦では,強皮症研究グループが厚生省強皮症調査研究班の成果に基づいて,皮膚を小さくつまみ上げるsmall pinchと,大きくつまみ上げるlarge
pinchの2段階評価法を提唱している。この方法では,スコア0はsmall pinchもlarge pinchも可能(正常),スコア1はsmall
pinchもlarge pinchも可能であるが,small pinchをしたときに皮膚が厚く触れる,スコア2はlarge pinchは可能であるが,small
pinchが不可能,スコア3はsmall pinchもlarge pinchも不可能となる。評価部位は左右の手指背,手背,前腕および上腕,大【腿】,下【腿】の伸側,足趾の7×2か所(14か所)および顔面,胸部,腹部の3か所の合計17か所である。modified
Rodnan skin scoreと同じ評価部位であるが,評価をより標準化するために2段階評価法を採用している。本邦での比較成績はないが,今後本症を専門とする医師同士の評価技術の標準化と訓練を徹底する必要があろう。また,欧米医師との評価結果の比較も必要となろう。
Z.SScを疑う契機となる皮膚症状
本症における皮膚臨床症状は,主に真皮の病的硬化と末梢循環障害に起因する。ACRの診断基準には大基準の近位皮膚硬化と小基準の強指症と指尖の虫【喰】い状瘢痕・潰瘍が含まれている。強指症のタイプには「先細り型」と「棍棒状型」とがあるが,これらのタイプと病型との間に相関はないようである。これら以外にも,本症を疑う契機となる皮膚症状が存在するので,以下にこれらについて述べる。以下の所見のみでSScかどうかを確定することは難しく,検査および組織所見を参考にする。
臨床的には,しばしば手指の浮腫が皮膚硬化に先行する(図3)。この浮腫の時期を自覚しないか,あるいは自覚していても受診しないために,皮膚硬化が明確になって初めて受診する患者が多い。患者自身が自覚している場合,受診時に「手がむくむ」,「手(指)が握りにくい」,「指がこわばる」などと訴える。
レイノー現象は一過性の血管攣縮によって生じる。真の発症機序はいまだ不明であるが,寒冷曝露,精神的緊張がきっかけとなって出現することが多い。臨床的に第3,4指に好発し,蒼白→紫色→紅色の3相性の色調変化を呈する(図4)。持続時間は症例によって数十分〜数時間と異なり,シビレ感,疼痛を伴う。
見逃されやすい症状に爪上皮の出血がある(図5)↑27)↑。レイノー現象をはじめとする末梢循環障害の高度な例でみられることが多い。爪上皮とは後爪郭から爪甲へと伸び出した部分で,そこに点状の出血が生じている。同時に爪上皮の延長を認めることもある。複数の爪上皮に出血がある場合に臨床的意義がある。なお,爪上皮の出血が非常に高度である例では皮膚筋炎を想起する必要がある。
[.皮膚の硬化範囲から肺と食道病変が予測できるか?
皮膚硬化の範囲が広いほど,すなわちdSScはlSScに比べて肺線維症,腎硬化症などの内臓病変を伴う頻度が高いことが指摘されてきた↑28〜31)↑。以下に,1989年から1999年の間に当科を受診したアメリカリウマチ学会診断基準案を満たす134例(lSSc;101例,dSSc;101例)の皮膚硬化の範囲と臨床症状との関連の概略を述べ,皮膚硬化範囲から肺と食道病変が予測可能であるかを考えてみたい。皮膚硬化の有無の判定は皮膚つまみ上げ法による臨床的評価に基づいて行った結果である。なお,今回の検討症例に高血圧性強皮症腎を来した例がないために腎病変に関する検討は行っていない。しかし,1978年から1988年の間に2例が高血圧性強皮症腎を発症している。これらの2例はいずれも急速に皮膚硬化が進行したdSScで,SSc発症5年以内に高血圧性強皮症腎が出現していており↑32)↑,高血圧性強皮症腎はSSc発症早期に起こりやすいという過去の報告に一致していた↑33)↑。
表1に示すように,肺線維症はdSScに高率に存在していたが(Pc<0.01),食道病変の有無およびSScに起因すると考えられる死亡数(Pc=0.093)に関しては両群間に有意な差はなかった。他方,皮膚硬化の範囲に関係なく,患者を抗セントロメア抗体陽性群,抗topo-T抗体陽性群,両抗体陰性群の3群に分けて検討すると(表2),肺線維症は抗topo-T抗体陽性群(87.1%),両抗体陰性群(41.8%),抗セントロメア抗体陽性群(21.2%)の順に高く(抗topo-T抗体陽性群vs両抗体陰性群;Pc=0.078,抗topo-T抗体陽性群vs抗セントロメア抗体陽性群;Pc=0.039),食道病変の有無については各群間に差はなかった。SScに起因すると考えられる死亡例は抗セントロメア抗体陽性群にはなかったが,他の2群には死亡例が存在していた。そこで,皮膚の硬化の範囲と抗セントロメア抗体および抗topo-T抗体の有無を加味してさらに検討した。lSSc患者群は上記抗体の有無により3群に分けられ(表3),抗topo-T抗体陽性患者では肺線維症が有意に高率に認められたが(Pc<0.01),食道病変の有無およびSScに起因すると考えられる死亡数に関しては3群間に有意な差はなかった。死亡例が両抗体陰性患者群に4例あったことは注目に値すると思われたが,有意差はなかった。dSSc患者群は抗セントロメア抗体陽性患者が存在しないために2群に分けられた(表4)。SScに起因すると考えられる死亡例は抗topo-T抗体陽性患者にのみ存在したが(Pc=0.072),肺線維症と食道病変の有無に関して両群間に有意差はなかった。
以上の結果をまとめると,dSSc患者は肺線維症を有することが多いが,抗topo-T抗体陽性患者では皮膚硬化の範囲にかかわらず肺線維症を有することが多い。本症の食道病変は病型,自己抗体の有無には関係なく,高頻度に存在する。強皮症関連死は抗セントロメア抗体陽性患者にはなかったが,lSScの死亡例は両抗体陰性患者に多くみられ(5例中4例),dSScでは死亡例全例が抗topo-T抗体陽性患者であった。すなわち,生命予後の面からは,lSScでは両抗体陰性患者,dSScでは抗topo-T抗体陽性患者に注意を払う必要があろう。
肺線維症はSSc患者の生命予後を大きく左右する臓器病変の一つである。全例で重篤な肺病変を来すわけではないが,肺病変の高度な例では発症後間もない時期に急速に進行するといわれている↑34)↑。しかし,発病初期にその進行速度および将来の重症度を予測するマーカーはみつかっていない。しかし,われわれの経験した例からいえることは,患者が抗topo-T抗体陽性でdSScである場合には肺病変に関して注意深い経過観察が必要であるということである。
\.SSc患者の重症度の評価
人口の高齢化に伴って,わが国の保険制度が危機に瀕している。その影響かどうか定かではないが,SLEでは医療費の一部患者負担が導入された。また,介護保険制度では介護サービス希望者に対して70項目以上にわたる評価が行われ,その重症度により給付額が決定される。今後,SScにおいても重症度に応じた医療費の負担という問題が生じてくる可能性が大きいと思われる。
重症度は生命予後に関わる臓器病変とQOLに関わる臓器病変とに分けて考えていく必要があるが,欧米のSSc研究グループから重症度評価案が1999年末に報告された↑35)↑。この基準案は,1.全身状態,2.末梢血管障害,3.皮膚硬化,4.関節/腱障害,5.筋病変,6.消化管病変,7.肺病変,8.心病変,9.腎病変の9項目について,0〜4段階で評価するものである。著者が和訳した基準案を表5に示す。この判定基準案には考え得る項目が網羅されており,ある程度納得がいくのではないだろうか。全項目が患者QOLに関わることはまちがいないが,末梢血管障害,皮膚硬化,関節/腱障害,筋病変はよりQOLに,消化管病変,肺病変,心病変,腎病変はより生命予後に影響する因子と考えられる。内臓病変がないか軽微であっても,関節の屈曲拘縮や手指の壊疽・潰瘍は著しく患者のQOLを低下させる。このような患者をどのように評価するかが問題である。評価項目毎に重みをつける,あるいは1項目でも4の評価があれば重症と評価するなどの工夫が必要かもしれない。この評価方法を用いて,本邦患者における重症度を評価し,総点数と臨床的な重症度評価が一致するかを調べてみることも意味あることであろう。
].お わ り に
皮膚科医として全身性強皮症に関わってきたものの一人として,独りよがりとの誹りは免れないと知りつつ私見を述べさせていただいた。本論では治療に関する事柄は述べなかったが,厳密な方法で本症の硬化病変に有効だと証明された治療法はまだ無いというのが現状である。その理由の一つに,本症は頻度が少ないために統計学的検討に耐えうる患者数を1施設で集め得ないことの困難さが挙げられよう。欧米では多施設共同研究が行われ,データが蓄積されつつある。今日,発症機序も治療法も確立されていない疾患が多く残されており,全身性強皮症もその一つである。一日でも早く患者を苦しみから救うため,臨床および基礎の両面において共同研究体制を築き,効率よく研究を進めていくことが全身性強皮症に関わる人々の責務ではないだろうか。
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34) Steen VD, Conte C, Owens GR et al:Severe restrictive lung disease in systemic
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35) Medsger TA Jr, Silman AJ, Steen VD et al:A disease severity scale for systemic
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著者紹介
1979年 群馬大医学部卒業
1984年 同大大学院終了
〃 同大皮膚科 助手
1988年 米国サウスカロライナ医大免疫・リウマチ学教室留学 1989年 群馬大皮膚科 講師
1993年 同 助教授
1998年 同 教授(現職)
主要研究テーマ:
皮膚科学,膠原病,褥瘡,真皮結合組織代謝,細胞増殖因子,三次元培養
表 1 皮膚硬化の範囲と肺,食道病変,強皮症関連死との関連
肺線維症食道病変強皮症関連死
lSSc(n=101) 36/100(36.0%) 51/66(77.3%) 5/95( 5.3%)
dSSc(n=32) 26/32 (81.3%) 24/27(88.9%) 4/27(14.8%)
表 2 自己抗体と肺,食道病変,強皮症関連死との関連
肺線維症食道病変強皮症関連死
Topo-T↑*↑陽性(n=31) 27/31(87.1%) 20/26(76.9%) 5/25(20.0%)
Topo-T/ACA↑**↑陰性(n=68) 28/67(41.8%) 36/60(60.0%) 4/58( 6.9%)
ACA↑**↑陽性(n=35) 7/33(21.2%) 22/28(78.6%) 0/29( 0%)
↑*↑:抗topo-T抗体 ↑**↑:抗セントロメア抗体
表 3 lSSCにおける自己抗体と肺,食道病変,強皮症関連死との関連
肺線維症食道病変強皮症関連死
Topo-T↑*↑陽性(n=12) 11/12 (91.7%) 6/10(60.0%) 1/10(10.0%)
Topo-T/ACA↑**↑陰性(n=54) 18/54 (33.3%) 23/28(82.1%) 4/47( 8.5%)
ACA陽性(n=35) 7/34 (20.6%) 22/28(78.6%) 0/28( 0%)
合計 36/100 (36.0%) 51/66(77.3%) 5/95( 5.3%)
↑*↑:抗topo-T抗体 ↑**↑:抗セントロメア抗体
表 4 dSSCにおける自己抗体と肺,食道病変,強皮症関連死との関連
肺線維症食道病変強皮症関連死
Topo-T↑*↑陽性(n=19) 16/19(84.2%) 14/16(87.5%) 4/16(25.0%)
Topo-T/ACA↑**↑陰性(n=14) 10/13(76.9%) 10/11(90.9%) 0/11( 0%)
合計 26/32(81.3%) 24/27(88.9%) 4/27(14.8%)
↑*↑:抗topo-T抗体 ↑**↑:抗セントロメア抗体
表 5 全身性強皮症重症度判定基準案↑35)↑
0(normal)1(mild)2(moderate)3(severe) 4(endstage)
全身状態 正常 体重減少#1
5.0―9.9kg 体重減少
10.0―14.9kg 体重減少
15.0―19.9kg 体重減少
20kg以上
Htc#2
33.0―36.9% Htc
29.0―32.9% Htc
25.0―28.9% Htc
25%以下
末梢血管障害 正常 血管拡張剤を要するレイノー現象 指尖虫【喰】状瘢痕 指尖潰瘍 指壊疽
皮膚硬化 TSS#3=0 TSS=1―14 TSS=15―29 TSS=30―39 TSS>40
関節・腱 FTP#4
=0―9mm FTP=10―19mm FTP=20―29mm FTP=30―39mm TSS>40mm
筋症状 近位筋の筋力低下 近位筋の筋力低下 近位筋の筋力低下 近位筋の筋力低下 近位筋の筋力低下
なし 軽度 中等度 高度 移動に介助を要する
消化管病変 正常 食道遠位部の蠕動低下 食道遠位部の蠕動消失 吸収不良症候群 hyperalimentationを要する
小腸の異常 抗生剤を要する細菌増殖 偽イレウスの既往
肺病変 正常 DLco 70―80% DLco 50―69% DLco <50% 酸素療法を要する
FVC 70―80% FVC 50―69% FVC <50%
ラ音,レ線上で肺線維症 軽度の肺高血圧症 中〜高度の肺高血圧症
心病変 正常 ECGの伝導障害 不整脈 治療を要する不整脈
左室駆出率
45―49% 左室駆出率
40―44% 左室駆出率
<40% うっ血性心不全
左右寝室の拡大
腎病変 正常 血清クレアチニン 血清クレアチニン 血清クレアチニン 透析を要する
1.3―1.6mg/dl 1.7―2.9mg/dl 3.0mg/dl以上
尿蛋白2+ 尿蛋白3+〜4+
#1;原著にどのくらいの期間の体重減少かについての記載がない。発症してからの体重減少か?
#2;ヘマトクリット値
#3;total skin score[17か所×(0―3)点;最高51点]
#4;finger to palm(指・手掌間距離;第4指尖とdistal palmar creaseとの距離)
図 1 真皮下層に始まる膠原線維の均質化
図 2 均質化した膠原線維
図 3 手指の浮腫
患者は20歳,男性。レイノー現象を主訴に来院。虫【喰】状瘢痕を指尖に認め,抗topo-T抗体陽性であった。手指は硬化というよりも,浮腫性変化が主体である。組織学的に,前腕皮膚では均質化した膠原線維が真皮下層に認められた。
図 4 レイノー現象
図 5 爪上皮の出血
レイノー現象を伴っていたり,末梢循環障害の強い例では爪上皮の延長と複数指の爪上皮の出血を認めることが多い。
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