T.は じ め に
慢性関節リウマチ(RA)は免疫異常を伴う慢性炎症性疾患であり,多発性の関節破壊をもたらす。関節破壊は,一般的にはmatrix
metalloproteinases(MMPs)やカテプシンなどの蛋白分解酵素による軟骨破壊と,その後の骨破壊によって起こると考えられているが,手指関節などの非荷重関節における侵食や急速に進行する関節破壊部では増殖した滑膜(パンヌス)が骨と接しており(bare
area),直接滑膜が骨を溶かしているかのような像がみられる↑1)↑。そして,滑膜が侵【蝕】していく最前線には多数の破骨細胞が観察されている。このように,RAの骨軟骨破壊においては,可溶性因子による基質分解だけでは急速な破壊を来すことはまれであり,破骨細胞性骨吸収が関与することで高度な骨破壊がもたらされると考えられる。本稿では,RAによる関節破壊の中でも,とくに破骨細胞による骨吸収についてわれわれの知見を含めて概説する。
U.滑膜細胞からの破骨細胞の分化
破骨細胞は造血幹細胞を起源とする前駆細胞が融合して形成されるが,その際にその支持細胞である間葉系細胞との接触刺激が不可欠である↑2)↑。現在までに,RA滑膜細胞が破骨細胞に分化しうることが複数のグループから報告されている↑3〜5)↑。なかでもKoshiharaらのグループは,RA滑膜細胞単独初代培養系やRA滑膜線維芽細胞と末梢血単球の共存培養系において破骨細胞が形成されることを示し,とくに滑膜線維芽細胞が破骨細胞形成支持細胞として機能しうることを報告している↑3)↑。しかしながら,これらの培養系における破骨細胞形成は活性型ビタミンDやM-CSFなどによる刺激条件下でのみ可能であり,RA滑膜細胞からの破骨細胞形成の調節にその局所環境が重要な役割を果たしていると考えられる。
また,RA滑膜細胞は形質転換(transformation)によって,異常な増殖性や転写活性の亢進などを獲得するとされている。Ras,c-fos,c-mycなどの増殖や炎症性因子の転写制御に関与する前癌遺伝子の活性化が報告されており,これらのシグナルが転写異常や細胞周期異常を引き起こしていると考えられる。この滑膜細胞の異常は,増殖因子を産生してさらなる滑膜の増殖を促進し,自らのMMPやカテプシンなどの基質分解酵素の産生や,軟骨細胞などの他細胞からの酵素の産生を誘導することで基質分解を促進する。また同時に,骨軟骨破壊のための局所環境を作ることになる。
V.骨吸収性サイトカインとRA関節破壊
われわれは,滑膜細胞からの破骨細胞誘導を調節する局所因子として関節液に注目し,まずそれ自身の骨吸収活性について検討した↑6)↑。RA患者(59例)を,膝関節のX線画像上のLarsen分類によって軽度骨破壊群(grade
1〜3;mild RA, 30例)および高度骨破壊群(grade 4, 5;severe RA, 29例)の2群に分け,対照として変形性関節症(OA,
37例)患者の関節液を用いた。まず,3群由来の膝関節液の破骨細胞形成能および骨吸収活性を比較した。その結果,severe RA患者由来の関節液は,mild
RAおよびOA患者由来の関節液に比べて,有意に高い破骨細胞形成能(図1)および骨吸収活性(図2)を示した。このことは,関節液内の何らかの液性因子が,破骨細胞の形成を調節しており,これが関節破壊の直接の原因になっている可能性を強く示唆するものといえる。
関節液中に産生・分泌される骨吸収性サイトカインとしては,腫瘍壊死因子(TNF)-α,インターロイキン(IL)-1,IL-6,および可溶性IL-6受容体などが知られており,いずれも近年,RAにおける免疫異常,炎症,および細胞増殖との関与が指摘されている↑3,4,6〜12)↑。また,線維芽細胞増殖因子(FGF)-2は,近年その骨吸収促進作用が注目されているサイトカインである↑7〜10)↑。そこで,関節液中の上記サイトカインの濃度を測定したところ,すべてのサイトカインがRA関節液ではOA関節液よりも高値を示し,これらのサイトカインは少なくともRAによる免疫反応や炎症に関与している可能性が示された。しかしながら,TNF-α,IL-1,IL-6,および可溶性IL-6受容体の濃度は,severe
RAとmild RAの間には差がなく,これらのサイトカインの関節破壊に対する直接の調節作用は否定的と考えられた。唯一,関節破壊の程度と相関を示したのはFGF-2濃度であり,severe
RAではmild RAおよびOAのそれぞれ5倍および20倍の濃度を示した(図3)。また,severe RA関節液による破骨細胞形成能は,それぞれのサイトカインの中和抗体によっていずれも有意に抑制されたが,その抑制効果は抗FGF-2抗体が最も強力であった(図1)。以上より,関節液中のFGF-2はRAによる関節破壊に関与している可能性が示された。しかしながら,in
vitroの培養系で検討したところRA関節液と同程度の破骨細胞形成能を示すためには10↑-9↑〜10↑-8↑の高濃度のヒトリコンビナントFGF-2が必要なのに対し↑10)↑,関節液中のFGF-2濃度は10↑-13↑〜10↑-12↑程度にすぎなかった。以上より,関節液中のFGF-2は他の因子との相乗作用によってRAにおける破骨細胞性骨吸収に関与していることが示唆された。
われわれは,高濃度のFGF-2の強力な骨吸収促進作用が主として間葉系細胞におけるプロスタグランジン合成,とくにその合成酵素であるサイクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の転写レベルにおける誘導を介するものであることを報告してきた↑8)↑。事実,RA関節液による破骨細胞形成能は,COX-2選択的阻害剤であるNS-398によって抗FGF-2抗体と同レベルにまで抑制された(図1)。近年,さまざまなCOX-2選択的阻害剤が臨床応用され始めているが,この結果はCOX-2選択的阻害剤が抗炎症作用のみならずRAにおける破骨細胞による関節破壊をも抑制する可能性を示唆するものといえる。
一方われわれは,ウサギ長管骨由来の単離成熟破骨細胞の培養系を用いた検討により,FGF-2が間葉系細胞を介する間接作用以外に成熟破骨細胞に対して直接その活性を促進する作用があることを見出した。間接作用は高濃度(10↑-9↑以上)において強力に(象牙片上の吸収窩形成で約10倍)骨吸収活性を促進するものであるのに対し,直接作用は低濃度(10↑-12↑以上)で軽度(約2倍)の促進効果を示した(図4)。この直接作用の濃度は関節液中に産生・分泌されるFGF-2の濃度と同レベルのものであった。また,この両細胞に対する作用の違いは受容体の違いに基づくものであり,間葉系細胞には4種類FGF受容体(FGFR1-4)がすべて存在するのに対し,破骨細胞にはFGFR1のみが存在していた。さらにわれわれは,FGF-2の直接作用は,成熟破骨細胞においてFGFR1を自己リン酸化し,その下流のMAPキナーゼであるp44/42
ERKを活性化することによって実現されるものであることを明らかにした↑11)↑。
以上のことから,RA患者の関節液中に分泌されたFGF-2は,他の因子との相乗効果による間接的かつ強力なCOX-2誘導を介する作用と,それ自身による直接的かつ軽度の作用によって,破骨細胞性骨吸収を調節している可能性が示唆された。
W.RANKL/ODFとRA関節破壊
従来より,破骨細胞の分化のためには間葉系細胞との接触刺激が必要であり,骨芽細胞の膜表面に発現している破骨細胞分化促進因子(osteoclast
differentiation factor;ODF)の存在が想定されていた↑2)↑。1997年にAmgenのグループ,雪印乳業のグループから破骨細胞形成阻害因子としてosteoprotegerin(OPG)/osteoclastgenesis-inhibitory
factor(OCIF)というTNF受容体スーパーファミリーに属する分子が同定されたが↑12,13)↑,その後の研究でそのリガンドがODFであることが明らかとなった↑14)↑。ODFはTNFスーパーファミリーに属する膜結合型蛋白であり,すでにT細胞や樹状細胞で同定されていたTRANCE/RANKLと同一の分子であることがわかった。OPG/OCIFは破骨細胞前駆細胞上のRANKL/ODF受容体であるRANKと結合することにより競合的に破骨細胞形成を阻害することも明らかになっている(図5)。OPGの過剰発現マウスでは大理石骨病が↑13)↑,ノックアウトマウスでは骨粗鬆症が起こっており,一方,RANKL/ODFの過剰発現マウスでは骨粗鬆症が↑15)↑,ノックアウトマウスでは大理石骨病が起こることが報告されている↑16)↑。
このRANKL/ODFがRAの関節破壊にも重要な役割を果たしていることが,最近明らかになってきた。われわれも,FGF-2による刺激が骨芽細胞によるCOX-2誘導,プロスタグランジンの産生を介してautocrine作用としてRANKL/ODFを発現させて破骨細胞形成を促進することを報告し↑17)↑,上記のRA関節破壊のサイトカインの下流にRANKL/ODFの関与が存在することを示唆した。FGF-2産生細胞については不明のままであるが,おそらく滑膜細胞中の線維芽細胞系細胞または骨芽細胞系細胞と考えられる。一方,Amgenのグループは,炎症を起こした関節で活性化されたT細胞自身がRANKL/ODFを産生して破骨細胞形成を促進することを報告している↑18)↑。彼らの報告によると,モデルマウスにおいてOPG/OCIFによって関節炎自体はほとんど抑制されなかったのに対し,関節破壊が選択的にほぼ完全に抑制されていた。これは
RANKL/ODF が免疫異常や滑膜増殖には関与せず,その後の関節破壊に重要な役割を果たしていることを示すもので,RANKL/ODFの上流のシグナルの解明がRAの病態を理解する上で,重要なアプローチとなるものと推測される。RANKL/ODFの産生細胞としては,上記のAmgenの活性化T細胞の他に,Takayanagiらは滑膜細胞中の間葉系の細胞である可能性を報告している↑19)↑。また,RA関節炎に重要な因子として知られているTNF-α,IL-6,およびIL-1も,その産生細胞である滑膜マクロファージ系細胞や他の細胞にautocrine/paracrineに作用してRANKL/ODFを誘導している可能性もある(図6)。近年,とくにTNF-αについてはRANKL/ODFを介さない破骨細胞形成作用がin
vitroの実験系で報告されている↑20,21)↑が,モデル動物の関節破壊がOPG/OCIFによってほぼ完全に抑制されることを考えると,この直接作用は少なくともRA関節破壊には関与していないものと考えられる。
X.お わ り に
以上,RA関節破壊における破骨細胞による骨吸収のメカニズムについての最近の知見につき,断片的ではあるが概説した。RAの根本的な異常である免疫異常や炎症,滑膜増殖に起因するサイトカインの産生促進が,さまざまの経路でRANKL/ODFを誘導することが,その病態に重要な役割を果たしていることが明らかになってきている。RAによる関節破壊を,RAの上記の根本的な異常と独立させて考えるのではなく,あくまで2次的な現象として相互の相関を解明していく研究こそ,有望な治療法の開発に繋がるものと期待される。
文 献
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著者紹介
1985年 東京大医学部卒業
1990年 同大大学院医学研究外科系専攻博士課程入学
1996年 学位取得(医学博士)
1985年 東京大整形外科 研修医(非常勤)
1986年 富士吉田市立病院整形外科 医師
1987年 都立豊島病院整形外科 医師
1989年 東大病院分院 医員
1991年 米国コネチカット大内分泌科留学 post-
doctoral research fellow(Lawrence Raisz教授の下)
1994年 都立広尾病院整形外科 医師
1996年 東京大整形外科 助手
1998年 同 講師(現職)
主要研究テーマ:
骨代謝学,細胞分子生物学,サイトカインシグナルの骨代謝調節機構,老化抑制遺伝子klothoの研究,骨軟骨変性疾患のゲノム解析
図 1 Mild RA,severe RA,およびOA患者由来の関節液による破骨細胞形成促進効果と各サイトカイン中和抗体の抑制効果
破骨細胞形成は,マウス由来の骨芽細胞と骨髄細胞の共存培養系におけるTRAP陽性多核細胞(3核以上)の数で評価した。Severe
RA由来の関節液は強力な破骨細胞形成能を示し,その作用は,とくに抗FGF-2抗体と,COX-2の選択的阻害剤であるNS-398によって著明に抑制された。
a:P<0.01,significant difference vs. mild RA and OA
b:P<0.01,significant inhibition vs. non-immune IgG
c:P<0.01,significant inhibition vs. other antibodies as well as
non-immune IgG
図 2 Mild RA,severe RAおよびOA患者由来の関節液の骨吸収活性(希釈倍率による用量反応)
骨吸収活性は,予めラベルした培養マウス新生児頭蓋骨からの↑45↑Caの遊離率で計測した。Severe RA由来の関節液は,他の2群よりも強力な骨吸収活性を示した。
a:P<0.01,significant difference vs. OA
b:P<0.01,significant difference vs. mild RA
図 3 関節液中の各種サイトカインの濃度
それぞれ,OA患者の平均値を1としたときの比で示している。すべてのサイトカインがRA関節液ではOA関節液よりも高値を示したが,TNF-α,IL-1,IL-6,および可溶性IL-6受容体の濃度は,severe
RAとmild RAの間には差がなかった。唯一,関節破壊の程度と相関を示したのはFGF-2濃度であり,severe RAではmild
RAおよびOAのそれぞれ5倍および20倍の濃度を示した。
a:P<0.01,significant difference from mild RA
図 4 FGF-2の成熟破骨細胞に対する直接作用と間接作用
ウサギ長管骨由来の単離成熟破骨細胞(purified osteoclasts),または単離する前段階の細胞(unfractionated
cells)の培養系におけるFGF-2の用量反応を検討した。間接作用は高濃度(10↑-9↑以上)において強力に(約10倍),直接作用は低濃度(10↑-12↑以上)で軽度(約2倍)にみられた。
a:P<0.01 vs. control
図 5 破骨細胞形成におけるRANKL/ODF,OPG,RANKシグナル
さまざまな骨吸収促進因子は,間葉系細胞に作用して膜蛋白であるRANKL/ODFを誘導する。RANKL/ODFは破骨細胞前駆細胞のRANKと結合することによってその分化が促進される。一方,OPGはRANKL/ODFの可溶性の囮受容体であり,RANKL/ODFとRANKの結合を阻害することによって破骨細胞分化を抑制する。
図 6 RA関節における破骨細胞形成へのRANKL/ODFの誘導メカニズム
炎症を起こした関節で活性化されたT細胞自身がRANKL/ODFを産生して破骨細胞形成を促進するという報告が注目されている↑18)↑。一方では,RANKL/ODFが滑膜細胞中の間葉系の細胞や滑膜マクロファージ系細胞で産生される可能性も示唆されている。
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