関節リウマチ(RA)に対するアバタセプト使用の手引き (2022年10月23日改訂版)
アバタセプトは、CTLA-4分子の細胞外ドメインとヒト免疫グロブリンIgG1のFc領域からなる可溶性融合蛋白で、抗原提示細胞表面のCD80/86に結合することで、T細胞の活性化を阻害し、抗リウマチ効果を示す薬剤である。海外では米国、欧州で関節リウマチ治療薬として承認され、有効性および安全性が報告されている1)。本邦では2010年に静注製剤、2013年に皮下注製剤が承認された。日本人における有効性及び安全性に関する十分なデータは存在しないため、国内外の臨床試験および海外での市販後調査の成績を参考にして、手引きを作成した。近年、関節リウマチ治療薬による免疫抑制の結果、帯状疱疹などのウイルス感染のリスクの上昇が指摘されている。また、その予防としてのワクチン接種の重要性が認識され、欧米の学会からワクチン接種に関するリコメンデーションが公表されている。今回、手引きの一部を改訂し、日本人のエビデンスと欧米でのガイドラインを参考にして、ワクチン接種の注意事項に関する項目を追加した。
手引きの目的
アバタセプトは、関節リウマチ患者の臨床症状の改善・関節破壊進行抑制・身体機能の改善が期待できる薬剤であるが、投与中に重篤な有害事象を合併する可能性がある。本手引きは、国内外での臨床試験および海外での市販後調査の成績を基に、アバタセプト投与中の有害事象の予防・早期発見・治療のための対策を提示し、各主治医が適正に薬剤を使用することを目的とする。
対象患者
- 疼痛関節数6関節以上
- 腫脹関節数6関節以上
- CRP 2.0mg/dL以上あるいはESR 28mm/hr以上
- 末梢血白血球 4000/mm3以上
- 末梢血リンパ球数 1000/mm3以上
- 血中β-D-グルカン陰性
用法・用量
- 体重別の用量[<60Kgで500mg(2バイアル)、60~100Kgで750mg(3バイアル)、>100Kgで1000mg(4バイアル)]を1バイアルあたり10mLの日局注射用水(日局生理食塩液も使用可)で溶解後、日局生理食塩液(100mL)で希釈し、30分かけて点滴静注する。
- 初回投与後、2週後、4週後に投与し、以後4週間隔で投与を継続する。
投与初日に負荷投与(loading dose)として点滴静注を行った後、同日中に125mgを1日1回の皮下注射を行い、その後、週1 回、皮下注射する。
また、125mgを1日1回、週1 回、皮下注射から開始することもできる。
アバタセプト点滴静注用製剤から皮下注製剤に切り替える場合、負荷投与は行わず、次に予定している点滴静注の代わりに初回皮下注射を行うこと。
自己注射に移行する場合には、患者の自己注射に対する適性を見極め、十分な指導を実施した後で移行すること。
投与禁忌
- 明らかな活動性を有している感染症を保有する患者においては、その種類に関係なく感染症の治療を優先し、感染症の治癒を確認後に本剤の投与を行う。
要注意事項
- 胸部X線撮影が即日可能であり、呼吸器専門医、放射線専門医による読影所見が得られることが望ましい。
- 日和見感染症を治療できる。スクリーニング時には問診・インターフェロン-γ遊離試験(クオンティフェロン、T-SPOT)またはツベルクリン反応・胸部X 線撮影を必須とし、必要に応じて胸部CT撮影などを行い、肺結核を始めとする感染症の有無について総合的に判定する。
- 結核の既感染者、胸部X 線写真で陳旧性肺結核に合致する陰影(胸膜肥厚、索状影、5 ㎜以上の石灰化影)を有する患者、インターフェロン-γ遊離試験あるいはツベルクリン反応が強陽性の患者は潜在性結核を有する可能性があるため、必要性およびリスクを十分に評価し慎重な検討を行った上で、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には本剤の開始を考慮してもよい。
- 潜在性結核の可能性が高い患者では、本剤開始3週間前よりイソニアジド(INH)内服(原則として300mg/日、低体重者には5mg/kg/日に調節)を6~9 ヶ月行なう。
- 非結核性抗酸菌感染症に対しては確実に有効な抗菌薬が存在しないため、同感染患者には原則として投与すべきでないが、患者の全身状態、RAの活動性・重症度、菌種、画像所見、治療反応性、治療継続性等を慎重かつ十分に検討したうえで、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には本剤の開始を考慮してもよい。その場合には一般社団法人日本呼吸器学会呼吸器専門医との併診が望ましい。「生物学的製剤と呼吸器疾患 診療の手引き(日本呼吸器学会編集)」等を参照のこと。
- 重篤な感染症罹患歴を有する場合は、リスク因子の存在や全身状態について十分に評価した上で本剤投与を考慮する。
- 本剤投与中に発熱、咳、呼吸困難などの症状が出現した場合は、細菌性肺炎・結核・ニューモシスチス肺炎・薬剤性肺障害・原疾患に伴う肺病変などを想定した対処を行う。フローチャートおよび「生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き(日本呼吸器学会)」等を参照のこと。
- 呼吸器感染症予防のために、インフルエンザワクチンは可能な限り接種すべきであり、65歳以上の高齢者には肺炎球菌ワクチン接種も考慮すべきである。
- 本邦の関節リウマチ患者において、ニューモシスチス肺炎の合併が近年重要視されており、リスクが高い患者(高齢、肺合併症、副腎皮質ステロイド投与、末梢血リンパ球減少など)ではST合剤によるニューモシスチス肺炎の発症抑制を考慮する。
- 副腎皮質ステロイド投与は、感染症合併の危険因子であることが示されている。アバタセプトが有効な場合は、副腎皮質ステロイドの減量を進め、可能であれば中止することが望ましい。
- 本剤とTNF阻害薬の併用は感染症および重篤な感染症のリスクを増加させることがあるため、併用をすべきではない3)。また、他の生物学的製剤との併用に関しては経験が少ないため併用を避けるべきである。
参考文献
1) Kremer JM, Dougados M, Emery P, et al. Treatment of rheumatoid arthritis with the
selective costimulation modulator abatacept: twelve-month results of a phase iib, double-blind, randomized, placebo-controlled trial. Arthritis Rheum. 2005;52:2263-71
2) Westhovens R, Kremer JM, Moreland LW, et al. Safety and efficacy of the selective costimulation modulator abatacept in patients with rheumatoid arthritis receiving background methotrexate: a 5-year extended phase IIB study. J Rheumatol. 2009;36:736-42
3) Weinblatt M, Combe B, Covucci A, et al. Safety of the selective costimulation modulator
abatacept in rheumatoid arthritis patients receiving background biologic and nonbiologic disease-modifying antirheumatic drugs: A one-year randomized, placebo-controlled study.
Arthritis Rheum. 2006;54:2807-16
4) http://www.jsh.or.jp/doc/guidelines/HBV_GL_ver2.201406.pdf
5) Kobayashi I, Mori M, Yamaguchi K, et al. Pediatric Rheumatology Association of Japan
recommendation for vaccination in pediatric rheumatic diseases. Mod Rheumatol 2014 ;25:335-43
6) Kumar M, Ray L, Vemuri S, Simon TA. Pregnancy outcomes following exposure to abatacept during pregnancy. Semin Arthritis Rheum. 2015;45:351-6
7) Simon TA, Smitten AL, Franklin J, et al. Malignancies in the rheumatoid arthritis abatacept clinical development programme: an epidemiological assessment. Ann Rheum Dis. 2009;68:1819-26
関節リウマチ(RA)に対するアバタセプト使用の手引き(2022年10月23日改訂版)
一般社団法人 日本リウマチ学会
ガイドライン委員会
RA治療薬ガイドライン小委員会
委員長 川人 豊
(2022.10.23)
更新記録
2010年9月 関節リウマチ(RA)に対するアバタセプト使用ガイドライン初版策定
2014年6月 改訂第2版
2014年8月 改訂第3版
2017年3月 改訂第4版
2019年6月 改訂第5版
2020年2月 改訂第6版
2022年10月 改訂第7版