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医師向け情報
2022年2月22日改訂
【目次】
1:COVID-19ワクチン接種に関するJCRの見解
2:COVID-19ワクチンについて
3:COVID-19について
欧米では2020年12月からワクチン接種が始まりました。現時点で、懸念されると思われる二点についてJCRの見解を提示することといたしました。ワクチン接種が先行している欧米のリウマチ学会の見解も参考にしています。
欧州リウマチ学会(EULAR)の見解を紹介します2)。「すべての人にとってCOVID-19ワクチン接種を勧める」としています。また「リウマチ性疾患患者がワクチン接種を差し控える理由がみあたらない」と踏み込んでもいます。米国リウマチ学会(ACR)もワクチン接種を強く推奨しています3)。
mRNAワクチン追加(3回目)接種の有効性に関する報告が、2022年1月22日に米国疾病予防管理センター(CDC)より報告されています4)。オミクロン株に対する症候性感染の予防効果はデルタ株よりも低下する可能性が示唆される結果となりましたが、追加(3回目)接種の変異株に対する有効性が示唆されています。免疫抑制療法中の症例、担癌症例などを含む免疫不全状態(immunocompromising conditions)の成人例(1,077例)に対する追加(3回目)接種の有効性に関しても2022年1月28日にCDCより報告されています5)。追加(3回目)接種完了群と2回接種完了群で入院予防効果に関する検討を行っています。追加(3回目)接種を完了した群での入院予防効果は88%(95%CI: 81%-93%)であったのに対し、2回接種完了群では69%(95%CI: 57-78%)であり、統計学的有意差を持って(p-value<0.001)入院予防効果が高いと示されました。
膠原病・リウマチ性疾患患者さんでの追加(3回目)接種の有効性・安全性に関するデータは限られているため、今後も慎重に検討をしていく必要がありますが、SLEなどの全身性炎症性疾患ではCOVID-19重症化のリスクが高いとする報告もあります2) 6) 7)。感染流行の終息が見通せない中、膠原病・リウマチ性疾患における追加(3回目)接種は、EULAR、ACRともに強く推奨をしています2) 3)。膠原病・リウマチ性疾患患者さんへのワクチン接種は追加(3回目)接種を含めて十分検討するに値すると考えられます。特に、膠原病・リウマチ性疾患以外に重症化リスクとなるような基礎疾患を有する症例では、追加(3回目)接種を含めたワクチン接種の検討が必要と考えられます。
注意すべき副反応は、アナフィラキシーショック、原疾患のリウマチ性疾患の悪化の二つであると考えます。ファイザー社製およびモデルナ/武田社製mRNAワクチンで、アナフィラキシーショックがリウマチ性疾患の患者さんで増えるという報告はありません3) 4) 5)。
利点(メリット) | 欠点(デメリット) |
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症および重症化の予防 ・弱毒生ワクチン(現在開発中)と異なり、すべての患者で投与が可能 |
・ワクチンの種類が今までにないものなので、長期的な有効性や安全性に関して十分に解明されていない ・アナフィラキシーなどの重篤なアレルギー反応や局所の強い反応が認められている ・今後のウイルスの変異に対応できるかどうかがわからない |
COVID-19の重症化リスクとして、高齢、悪性腫瘍、肺気腫など慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙、固形臓器移植後の免疫不全、妊娠後期があげられています1)。また、注意を要する状態として、ステロイド、生物学的製剤の使用やHIV感染症があげられています1)。年齢については、30歳代と比して60歳代の重症化率は25倍になると報告されています。日本リウマチ学会(JCR)では、リウマチ性疾患でステロイドをプレドニゾロン換算で5mg/日以上、免疫抑制剤、生物学的製剤、JAK阻害剤のいずれかを使用中の者をワクチン接種順位の上位に位置付けました。米国リウマチ学会(ACR)の提言では、リウマチ性疾患のすべての患者に追加(3回目)接種を含めたワクチン接種を推奨するとしています2)。
患者の併存疾患によって重症化リスクはそれぞれ異なり、感染リスクも感染の流行状況によって変動するため、リスクベネフィットを勘案したうえで接種の可否を判断してください。
2020年に欧州リウマチ学会(EULAR)から発表されたワクチン接種に関する一般的な推奨では、高疾患活動性の患者にインフルエンザワクチンを投与した時にワクチンによる抗体産生が低かったという報告を受けて、ワクチン接種は原疾患の疾患活動性が安定している時に行うことが望ましいとされています1)。米国リウマチ学会 (ACR)が2021年6月に公表したClinical guidanceにおいても、原疾患の疾患活動性が安定している時期でのCOVID-19ワクチン接種を推奨しています2)。今後の情報の集積が必要ですが、上記を受けて考えますと原疾患の疾患活動性が安定した状態でワクチン接種することが望ましいと考えます。
2021年8月に米国からリウマチ・膠原病患者に対する新型コロナワクチン(mRNAワクチン)の安全性について報告がされています。mRNAワクチン接種後、11%の症例で治療を要する原疾患の再燃が認められましたが、重度の再燃は認められないという結果でした3)。
一方、欧州リウマチ学会(EULAR)は、リウマチ性疾患患者における新型コロナワクチンの有効性・安全性を検討するregistry(COVAX)を立ち上げており、2021年12月にAnn Rheum Disで発表された報告4)では、ワクチン接種後に原疾患であるリウマチ・膠原病の再燃が認められた症例は全体の4.4%、重度の再燃は0.6%という結果でした。有害事象は37%、重度の有害事象は0.4%と報告されています。COVID-19ワクチン接種との因果関係が疑われる個別の有害事象に関しても報告されています。この結果から、著者らは膠原病・リウマチ性疾患患者におけるCOVID-19ワクチンの忍容性は良好であり、ワクチン接種による原疾患の再燃は稀であると結論づけています。
その他の報告においても、新たな安全性の懸念や原疾患の再燃リスク上昇は認められておりません5) 6)。
とくにMMF、Multitarget療法あるいはRTX/IVCY投与患者では抗ウイルス抗体の陽性化率はいずれも約60%に留まっています。一方、その他の治療群では90%~100%の患者さんで抗ウイルス抗体が陽性となりました。MMF、Multitarget療法あるいはRTX/IVCY投与患者では感染予防にとくにご注意ください。
米国リウマチ学会(ACR)のGuidance Related to the Use and Timing of Vaccine Dosing and Immunomodulatory Therapy in Relation to COVID-19 Vaccination in RMD Patients (Revised February 2, 2022)1)では、以下のようなエキスパートオピニオンが紹介されています。
TNF阻害薬、IL-1受容体阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-17阻害薬、IL-12/23阻害薬、IL-23阻害薬:
ワクチン接種時期と薬剤投与時期に関するタスクフォースのコンセンサス形成ができない
メトトレキサート、JAK阻害薬、レフルノミド、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリン、カルシニューリン阻害薬、アプレミラスト:
ワクチン接種後1~2週間の休薬(疾患活動性が許せば)
アバタセプト
アバタセプト静注: 投与予定の1週間前にワクチン接種時期を調整
アバタセプト皮下注: ワクチン接種後1~2週間の休薬(疾患活動性が許せば)
ベリムマブ
ワクチン接種後1~2週間の休薬(疾患活動性が許せば)
シクロホスファミド静注(IVCY)
IVCYは可能であればワクチン接種の約1週間後に投与
リツキシマブ、他の抗CD20B細胞抗体
投与予定の2~4週間前までにワクチン接種時期を調整
ヒドロキシクロロキン、免疫グロブリン静注療法
ワクチン接種時期と薬剤投与時期の調整不要
新型コロナウイルスワクチン(BNT162b2 mRNA)の2回目接種から2~6週後における自己免疫性炎症性リウマチ性疾患(AIIRD)患者の免疫原性や免疫抑制薬の影響が報告されています。リツキシマブ、アバタセプト、ミコフェノール酸モフェチル、グルココルチコイドを使用中の患者では中和抗体陽性率が減弱し、一般集団と比較して、それぞれ61%、29% (MTXとの併用で60%)、40%、34%ほど低下することが報告されています1)。
3回目のmRNAワクチン接種前後での抗リウマチ薬や免疫抑制薬の投与量の調整や休薬については、今のところ十分なエビデンスがありません。ワクチンの反応性が低下することが分かっている薬剤については、薬剤を減量もしくは一時的に中止することによってワクチンの効果が改善する可能性はあります。日本リウマチ学会(JCR)の研究においても、一部の免疫抑制薬を使用している患者さんではワクチンに対する反応性が低下することが確認されています。
ただし、mRNAワクチンにおいて、どのように減量すれば反応性が改善するかはまったく不明です。加えて、薬剤を減量、中止することによってリウマチ性疾患が悪化する可能性がありますし、原疾患が悪化している場合にCOVID-19となった際にはCOVID-19重症化の可能性があります。
米国リウマチ学会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULAR)でも推奨が分かれており、ACRは疾患活動性が安定している場合には3回目ワクチン接種後1-2週間の免疫抑制薬の中止を推奨していますが2)、EULARはワクチンの効果増強を目的とした免疫抑制薬の調整については再燃のリスクがあるため一般的には推奨しないとしています3)。
以上をまとめると、ワクチン接種にあわせた薬剤投与時期の調整は確固たるエビデンスに基づいた変更ではありません。一方で、原疾患が悪化しても致命的になる可能性が低く、かつ現在の病状が安定している場合には、ワクチン接種時から短期間(1-2週間程度)の免疫抑制薬の休薬を試みることが有効な可能性はあります。もし治療調整を試みる場合には、十分に個々人の状況を勘案したうえでご検討ください。
局所反応:接種部位の皮膚反応は6~80%に出現し、局所の疼痛が主で、発赤や腫脹は10%程度でした。ほとんどの症状は1週間以内に消失しました。
全身反応:全身反応の頻度は3~80%でした。頭痛・全身倦怠感・筋痛・関節痛・悪寒が主な症状で、2回目の投与時に頻度が上昇していました。若年者で副作用の頻度が多い傾向がありました1)。
アナフィラキシー:2022年1月2日までの日本でmRNAワクチン(ファイザー社、モデルナ/武田社)の接種が行われた症例で、1回目接種で100万回あたり5.3件、2回目接種で100万回あたり1.8件、3回目接種で100万回あたり1.9件の発生頻度となっています2)。現時点(2022年1月21日)では、ワクチン接種に際して重大な懸念は認められないとされています。アナフィラキシーは接種後15分以内に出現することが多く、接種直後の注意が必要です。
新型コロナワクチンの投与開始初期の重点的調査(コホート調査)が行われており、1、2回目接種、追加(3回目)接種に関する安全性の調査が行われています。厚生労働省 厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)の開催資料としても使用されており、定期的に更新されています3)。厚生労働省のホームページにもこれまでの安全性情報に関する資料がまとめられており、アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンに関する情報も掲載されていますので、最新の情報はこれらのページをご参照ください4)。
2. ウイルスベクターワクチン
74342人・月(中央値3.4か月)の観察で、168名175件の重篤な副反応が発現しました。ワクチン投与群で84件、プラセボ群で91件、ワクチン関連と考えられた有害事象は3例でした。ワクチン投与群では関連が否定できない横断性脊髄炎の報告がありました3)。
※健常人(一般集団)でのデータです。
なお、1・2回目接種後、新型コロナウイルスに感染した場合の追加(3回目)接種時期に関しては、日本の厚労省は暫定的に3ヶ月を一つの目安時期とすることを紹介しています5)。EULARは、COVID-19から回復後、2-6ヶ月後を目安にワクチン接種を推奨しています6)。本邦では感染から回復後、期間を開けずに追加接種を希望する方についても接種機会を提供する方針ですので、感染流行状況や基礎疾患の状態を踏まえて接種時期をご検討ください。
※健常人(一般集団)でのデータです。
現在の感染状況は患者の不安感を増強しており、服薬の自己中断をしないよう指導します。
2. 感染リスクを下げる
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)は飛沫感染・接触感染で伝播します。生活上の注意として、アルコールによる手指消毒や石鹸による手洗い、密閉・密集・密接を避ける、不要不急の外出を避ける、互いの距離を一定以上に保つ、換気をする、マスクを着用するなどがあげられます。
3. 感染を疑った時の対応
発熱や咳などの症状がある場合、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合、喉の痛み、嗅覚・味覚障害が出現した場合、経皮的酸素飽和度が90%前半以下に低下する、などの際にはCOVID-19を疑い、受診や相談をして頂くようにします。
医療者は、患者を診療する際には、標準予防策(常時マスク着用、手指衛生など)を徹底するようにしてください。現時点で、COVID-19は小児で重症化することは極めて稀ですが、多臓器系にわたる強い炎症を起こす病態(MIS-C/PIMS)を合併する例があることが報告されています。ACRホームページ上の小児リウマチ性疾患患者のClinical Guidance1) 2) 3)、日本小児科学会ホームページの情報を参考に、小児例に関しては目安どおりの対応をお願いします。
リウマチ性疾患の患者さんには上記の重症化リスクを有する方が少なくありません。リウマチ性疾患の患者さんがCOVID-19を発症した際には、その経過に十分な注意が必要です。
検査値の重症化マーカとしては以下が報告されています1) 6)。白血球増多、リンパ球減少、血小板減少、アルブミン低値、ALT上昇、LDH上昇、CK上昇、高感度トロポニンI上昇、プロトロンビン時間延長、Dダイマー増加、CRP上昇、プロカルシトニン上昇、CK上昇、AST上昇、ALT上昇、LDH上昇、クレアチニン上昇、が人工呼吸や死亡と有意に関連していたと報告されています5)。
核酸アナログ製剤で、コロナウイルスの増殖にかかわるRNAポリメラーゼを阻害し抗ウイルス活性を示します。培養ヒト肺細胞におけるMERS-CoVの複製を抑制し、霊長類モデルにおいて肺損傷を軽減させ、肺機能を改善させることが示されています1) 2)。複数の臨床試験において、すでに人工呼吸や高流量酸素投与を要する重症例では効果が期待できない可能性が高いが、そこまでに至らない酸素需要のある症例では有効性が見込まれています3) 4) 5)。投与期間は、5日間投与群と10日間治投与群とでは有効性・副作用に差がなかったことから原則5日間の投与が推奨されています。また、国内において承認条件に基づき臨床試験成績が提出され、中等症に対しても効果が認められると判断され、2021年1月からは、必ずしも酸素投与を要しなくとも肺炎像が認められる「中等症Ⅰ」にも投与が可能となっています。重症化リスク因子のある発症7日以内の軽症・中等症ⅠのCOVID-19を対象に行われたランダム化比較試験(PINETREE)で、レムデシビルを3日間投与した治療群では、プラセボ群と比較してCOVID-19に関連した入院または死亡が87%減少させたと報告されたことから、欧州・米国では適応拡大が承認されています6)。本邦では軽症例に対する3日間投与は適応外使用になるため、各医療機関で必要な手続きを取る必要があります。
適応は「SARS-CoV-2による感染症」で、重症化リスク因子を有する等、本剤の投与が必要と考えられる患者に投与することとされています。症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは無いため、症状が発現してから速やかに投与する必要があります。
重症化リスク因子については、日本感染症学会の「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第13報」2)(2022年2月10日)や、承認審査での評価資料となった海外第Ⅱ/Ⅲ相試験MOVe-OUT (002)の組み入れ基準、国内の主要な診療ガイドラインである「COVID-19診療の手引き」、既に承認を受けている英国で、臨床試験(PANORAMIC試験)が想定されますので(下表)を参考にしてください。
また、重症度の高いCOVID-19 患者に対する有効性は確立していません。なお、重症度が高いとは、概ね中等症Ⅱ以上が該当するとされています。
MOVe-OUT (002)試験組入れ基準における重症化リスク因子 | 診療の手引き第 6.0 版 ※妊婦への投与は禁忌のため除く |
英国でのPANORAMIC試験の君入れ基準における重症化リスク因子 |
・61歳以上 ・活動性のがん(免疫抑制又は高い死亡率を伴わないがんは除く) ・肥満 (BMI 30 以上) ・重篤な心疾患(心不全、冠動脈疾患又は心筋症) ・慢性閉塞性肺疾患 ・糖尿病 ・慢性腎臓病 |
・65 歳以上の高齢者 ・悪性腫瘍 ・慢性閉塞性肺疾患(COPD) ・慢性腎臓病 ・2型糖尿病 ・高血圧 ・脂質異常症 ・肥満(BMI 30 以上) ・喫煙 ・固形臓器移植後の免疫不全 |
・慢性呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、喘息を含み、少なくとも毎日予防薬や緩和薬を使用する必要がある。) ・慢性的な心臓または血管の病気 ・慢性腎臓病 ・慢性的な肝疾患 ・慢性神経疾患(認知症、脳卒中、てんかんを含む) ・重度の学習障害 ・ダウン症 ・糖尿病(I型またはII型) ・免疫抑制:一次性(例:遺伝子変異による遺伝性免疫疾患、通常は出生時に発症し小児期に診断される)または疾患や治療による二次性(例:鎌状赤血球、HIV、癌、化学療法) ・固形臓器、骨髄、幹細胞の移植後 ・病的な肥満(BMI>35) ・重度の精神疾患 ・ケアホーム居住者 ・臨床医または看護師が臨床的に脆弱と判断した場合 |
適応は「SARS-CoV-2による感染症」とされています。重症化リスク因子については、承認審査での評価資料となった海外第Ⅱ/Ⅲ相試験C4671005(EPIC-HR)の組み入れ基準、国内の主要な診療ガイドラインである「COVID-19診療の手引き」、(下表)を参考にしてください。
重症化リスクのある非入院COVID-19 患者を対象に行われたRCTの中間解析結果では、プラセボ群(385名)の28日目までの入院又は死亡が27名(7.0%)に対し、治療群(389名)では3名(0.8%)と相対的リスクが89%減少しました(p<0.0001)。この結果を受け、中間解析以降の被験者登録が中止されましたが、被験者登録が中止されるまでに組み入れられたすべての被験者(2,246名)を対象とした解析の結果においては、プラセボ群(682 名)の28日目までの入院又は死亡が44名(6.5%)に対し、治療群(697名)では5名(0.7%)と、相対的リスクが89%減少となっています。 臨床試験では症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏づけるデータは得られていません。
重症度の高いCOVID-19 患者に対する有効性は確立していません。なお、重症度が高いとは、概ね中等症Ⅱ以上が該当するとされています2)。
また、リトナビルはCYP3Aで代謝される薬剤の血中濃度を上昇させます。カルシウム拮抗剤・スタチン、精神安定剤など多くの薬が影響を受けます。添付文書でも細かな併用禁忌・注意が設定されております。詳細は最新の添付文書等をご確認ください。
副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤、JAK阻害剤などによる治療中の膠原病・リウマチ性疾患患者さんは重症化リスク因子を有していると考えられます。COVID-19罹患時には、重症度や併存疾患等を考慮した上で、中和抗体薬の適応についてご検討ください。
MOVe-OUT (002)試験組入れ基準における重症化リスク因子 | 診療の手引き第 6.0 版 ※妊婦への投与は禁忌のため除く |
・60歳以上 ・BMI 25kg/m2超 ・喫煙者(過去30日以内の喫煙があり、かつ生涯に100本以上の喫煙がある) ・免疫抑制疾患又は免疫抑制剤の継続投与 ・慢性肺疾患(喘息は、処方薬の連日投与を要する場合のみ) ・高血圧の診断を受けている ・心血管系疾患(心筋梗塞、脳卒中、一過性脳虚血発作、心不全、ニロトグリセリンが処方された狭心症、冠動脈バイパス術、経皮的冠動脈形成術、頸動脈内膜剥離術又は大動脈バイパス術の既往を有する) ・1型又は2型糖尿病 ・慢性腎臓病 ・鎌状赤血球症 ・神経発達障害(脳性麻痺、ダウン症候群等)又は医学的複雑性を付与するその他の疾患(遺伝性疾患、メタボリックシンドローム、重度の先天異常等) ・限局性皮膚がんを除く活動性のがん ・医療技術への依存(SARS-CoV-2による感染症と無関係な持続陽圧呼吸療法等) |
・65 歳以上 ・悪性腫瘍 ・慢性閉塞性肺疾患(COPD) ・慢性腎臓病 ・2型糖尿病 ・高血圧 ・脂質異常症 ・肥満(BMI 30 以上) ・喫煙 ・固形臓器移植後の免疫不全 ・妊娠後期 |
適応は「SARS-CoV-2による肺炎(ただし、酸素吸入を要する患者に限る)」とされています。JAK阻害薬は、抗炎症作用やサイトカインストームの抑制効果が期待され、一部の薬剤ではエンドサイトーシス経路の阻害作用も推測されています。JAK1/JAK2阻害薬であるバリシチニブに関する国際共同臨床試験(ACTT-2試験)では、バリシチニブ・レムデシビル併用群が、レムデシビル単独治療群と比べ、回復までの期間(中央値)が約1日短縮(高流量酸素投与例では8日短縮)しました1)。また、COV-BARRIER試験では、標準療法(副腎皮質ステロイド投与79%、レムデシビル投与19%)に加えて、バリシチニブ又はプラセボ投与群の比較を行っています。主要評価項目である28日目までに非侵襲的若しくは侵襲的人工呼吸管理へ移行又は死亡に至った患者の割合は、統計学的有意差は認められませんでしたが(オッズ比0.85;95%CI 0.67~1.08;p=0.18)、28日以内の死亡に関しては、バリシチニブ群で8.1%、プラセボ群で13.1%とバリシチニブ群で低かったと報告されています2)。標準的な投与方法は酸素吸入を要する患者に対して、バリシチニブとして4mg1日1回最大14日間までとなっています。本邦ではバリシチニブは、レムデシビルの併用においてCOVID-19治療薬として効能追加を承認されています。
英国での入院患者を対象とした臨床試験(RECOVERY試験)では、デキサメタゾンの投与を受けた患者(2104人)で死亡率の減少が示されています。予後改善効果は無作為化時に侵襲的人工呼吸器管理を要した患者で最大(29%対41%)であり、酸素投与を要さなかった集団では予後改善効果はみられませんでした1)。重症例に全身ステロイド投与を行ったメタアナリシスにおいても生存率の上昇が報告されています2)。本邦では中等症II以上の重症例に対するデキサメタゾンの使用が承認されており、標準的な投与方法はデキサメタゾンとして6mg1日1回10日間となっています。
適応は「SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者」などとされています。重症化リスク因子については、承認審査での評価資料となった海外第Ⅲ相試験(COV-2067試験)の組み入れ基準、国内の主要な診療ガイドラインである「COVID-19診療の手引き」、米国の緊急使用許可(EUA)において例示されている重症化リスク因子が想定されます(下表)。海外では主に外来で用いられており、入院または死亡リスクを減少させる効果があったと報告されています2) 3)。
※カシリビマブ/イムデビマブはオミクロン株への中和活性が低下することが報告されており、オミクロン株の感染が明らかである場合や、その蓋然性が高い場合の投与は推奨されていません。ソトロビマブはオミクロン株への有効性が引き続き期待できるものと考えられています。
COV-2067試験組入れ基準 | 診療の手引き第6.2版 | 米国 EUA |
・50 歳以上 ・肥満 (BMI 30 以上) ・心血管疾患 ・慢性肺疾患 ・1 型又は 2 型糖尿病 ・慢性腎障害 ・慢性肝疾患 ・免疫抑制状態 |
・65 歳以上の高齢者 ・悪性腫瘍 ・慢性閉塞性肺疾患(COPD) ・慢性腎臓病 ・2型糖尿病 ・高血圧 ・脂質異常症 ・肥満(BMI 30 以上) ・喫煙 ・固形臓器移植後の免疫不全 ・妊娠後期 |
• Obesity or being overweight • Pregnancy • Chronic kidney disease • Diabetes • Immunosuppressive disease or immunosuppressive treatment • Cardiovascular disease • Chronic lung • Sickle cell disease • Neurodevelopmental disorders • Having a medical-related technological |
適応は「SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者」などとされています。重症化リスク因子については、承認審査での評価資料となった海外第Ⅱ/Ⅲ相試験(COMET-ICE試験、214367試験)の組み入れ基準、国内の主要な診療ガイドラインである「COVID-19診療の手引き」、米国の緊急使用許可(EUA)において例示されている重症化リスク因子が想定されます(下表)。少なくとも1つ以上の重症化リスク因子を持つ軽症COVID-19患者を対象とした第3相のランダム化比較試験では、中間解析において発症から5日以内にソトロビマブ500mg単回投与群(291名)では、プラセボ投与群(292名)と比較して、主要評価項目である投与29日目までの入院または死亡が85%減少した(p=0.002)と報告されています。
これらの重症化リスク因子のうちいずれかを有するものであって、医師が必要と判断した場合に投与対象になりうると考えられますので、投与の際には参考にしてください。添付文書上の注意点として、症状が発現してから速やかに投与すること(症状発現から1週間程度までを目安に投与が望ましい)とされています。ACRのClinical Guidance2)にもCOVID-19治療薬としてソトロビマブが紹介されています。症状発現から可能な限り早く投与することが最も効果的であると記載がありますので、投与を検討される際にはご注意ください。
副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤などによる治療中の膠原病・リウマチ性疾患患者さんは重症化リスク因子を有していると考えられます。COVID-19罹患時には、重症度や併存疾患等を考慮した上で、中和抗体薬の適応についてご検討ください。
COMET-ICE試験、214367試験組入れ基準における重症化リスク因子 | 診療の手引き第6.2版 | 米国EUA(2021年8月時点FACT SHEET) |
・55歳以上 ・薬物治療を要する糖尿病 ・肥満(BMI 30 kg/m2超) ・慢性腎障害(eGFRが60mL/分/1.73 m2未満) ・うっ血性心不全(NYHA心機能分類クラスⅡ以上) ・慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患又は労作時の呼吸困難を伴う肺気腫) ・中等症から重症の喘息(症状コントロールのために吸入副腎皮質ステロイドを要する又は組み入れ前1年以内に経口副腎皮質ステロイドが処方されている者) |
・65 歳以上 ・悪性腫瘍 ・慢性閉塞性肺疾患(COPD) ・慢性腎臓病 ・2型糖尿病 ・高血圧 ・脂質異常症 ・肥満(BMI 30 以上) ・喫煙 ・固形臓器移植後の免疫不全 ・妊娠後期 |
• Older age (for example, age ≥65 years of age) • Obesity or being overweight (for example, BMI >25 kg/mhttps://www.cdc.gov/growthcharts/clinical_charts.htm2, or if age 12-17, have BMI ≥85th percentile for their age and gender based on CDC growth charts, https://www.cdc.gov/growthcharts/clinical_charts.htm) • Pregnancy • Chronic kidney disease • Diabetes • Immunosuppressive disease or immunosuppressive treatment • Cardiovascular disease (including congenital heart disease) or hypertension • Chronic lung diseases (for example, chronic obstructive pulmonary disease, asthma [moderate-to-severe], interstitial lung disease, cystic fibrosis and pulmonary hypertension) • Sickle cell disease • Neurodevelopmental disorders (for example, cerebral palsy) or other conditions that confer medical complexity (for example, genetic or metabolic syndromes and severe congenital anomalies) • Having a medical-related technological dependence (for example, tracheostomy, gastrostomy, or positive pressure ventilation (not related to COVID 19)) |
中等症II以上の重症例を対象に追加承認されました。ICU入室例を抗IL-6受容体抗体群(トシリズマブまたはサリルマブ)、コントロール群に割り付けた臨床試験では、主要評価項目であるorgan support-free daysの改善が認められました(REMAP-CAP試験)1)。COVID-19肺炎389例を対象とする試験(EMPACTA試験)では、主要評価項目である死亡および人工呼吸器を必要とする患者の割合が有意に低減しました(トシリズマブ群12.0% vs プラセボ群19.3%)2)。
WHOにおいて実施されたメタアナリシス(27のRCT)において、全死亡オッズ比(95%CI)は全体集団で0.86(0.79-0.95)、副腎皮質ステロイド薬併用あり集団で0.78(0.69-0.88)、副腎皮質ステロイド薬併用なし集団で1.09(0.91-1.30)でした。このうち、トシリズマブが用いられた19試験における当該オッズ比(95%CI)は全体集団で0.83(0.69-0.88)、副腎皮質ステロイド薬併用あり集団で0.77(0.68-0.87)、副腎皮質ステロイド薬併用なし集団で1.06(0.85-1.33)でした。これらの結果より、副腎皮質ステロイド薬とトシリズマブの併用により全死亡割合が低下することが示唆されました3)。
海外医師主導治験では、室内気SpO2が92%未満または酸素投与中でCRP 7.5mg/dL以上の肺炎症例を対象として実施されています。副腎皮質ステロイド薬の併用下でのトシリズマブの有効性が確認されていること、副腎皮質ステロイド薬を併用していない患者においては本剤投与により全死亡割合が高くなる傾向が認められたことなどから4)、上記臨床試験の結果を参考にして適応症例を慎重に検討する必要があります。また、バリシチニブとの併用については有効性、安全性は確立していません。
酸素投与や入院を要する中等症例、人工呼吸器などの集中治療管理を要する重症例では、深部静脈血栓症(DVT)などの血栓症のリスクがあります1) 2)。肥満、不動などの血栓症の発症リスクを有する場合あるいはDダイマーが正常上限の3〜4倍を超えるような場合には、ヘパリンなどによる抗凝固療法が推奨されます1) 2) 3)。厚生労働省の「COVID-19診療の手引き」には、低用量(予防用量)での未分画ヘパリンの投与が紹介されています。各学会の診療指針、ガイドライン等を参考に、抗凝固療法の適応についてご検討ください。
参考となるサイト
厚生労働省ホームページ
・医療機関向け情報(治療ガイドライン、臨床研究など)
・「自治体・医療機関向けの情報一覧(事務連絡等)(新型コロナウイルス感染症)」
国立感染症研究所
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報
国内学会ホームページ
・日本感染症学会(感染症トピックス 新型コロナウイルス感染症)
・日本集中治療医学会(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報)
・日本呼吸器学会(新型コロナウイルス感染症 COVID-19関連情報)
・日本環境感染学会(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応について)
・日本血栓止血学会(新型コロナウィルス特設ページ)
・日本プライマリ・ケア連合学会(新型コロナウイルス感染症 プライマリ・ケアのための情報サイト)
・日本産婦人科学会(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報)
・日本小児科学会(新型コロナウイルス関連情報)