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全例市販後調査のためのトファシチニブ使用ガイドライン (2014年6月29日改訂版)

 トファシチニブは、ヤヌスキナーゼファミリーの分子を阻害することによって、サイトカインシグナル伝達抑制を初めとする免疫抑制作用を介して抗リウマチ効果を示す薬剤である1)。2013年 3月に本邦で RAの適応が承認された。米国においても 2012年 11月に承認されている。一方、欧州では、2013年4月に、専門委員会においてベネフィット•リスクの観点から承認に対して否定的な見解が表明された。


ガイドラインの目的

 トファシチニブは、関節リウマチ患者の臨床症状の改善・関節破壊進行の抑制・身体機能の改善が臨床試験により証明された薬剤であるが、投与中に重篤な有害事象を合併する可能性がある1,2)。本指針は、国内外で実施された治験の結果を基に、市販後調査におけるトファシチニブ投与にあたって、その適応や、有害事象の予防・早期発見・治療のための注意点を示し、薬剤の適正使用を促すことを目的とした。

 本ガイドラインは、現時点における臨床試験の成績に基づき作成されたものである。今後、市販後臨床試験調査の成績を反映して、『実地臨床における適正使用のためのガイドライン』を策定する予定である。


対象患者

1. メトトレキサート (MTX) 8mg/週を超える用量を3ヶ月以上継続して使用してもコントロール不良の関節リウマチ患者。MTXの承認用量が16mg/週に引き上げられた2011年2月23日以降、上記治療歴のある患者を対象とする。 但し、現時点において安全性の観点からMTXを投与出来ない患者は原則として対象としないことが望ましい。

  • 疼痛関節数6関節以上
  • 腫脹関節数6関節以上
  • CRP 2.0mg/dL 以上あるいは ESR 28mm/hr 以上

上記3項目を満たさない患者においても、

  • DAS28-ESR、SDAI、CDAIでmoderate activity以上

のいずれかを認める場合も使用を考慮する。

2. さらに、日和見感染に対する安全性を配慮して以下の 3項目も満たすことが強く推奨される。

  • 末梢血白血球 4000/mm3以上
  • 末梢血リンパ球数 1000/mm3以上
  • 血中β-D-グルカン陰性

用法・用量
  • トファシチニブ5mg錠を、1日2回経口投与する。

投与禁忌

1. 活動性結核を含む,重篤な感染症を合併している患者。

  • 明らかな活動性を有している感染症を保有する患者においては、その種類に関係なく感染症の治療を優先し、感染症の治癒を確認後に本剤の投与を行う。本剤は、CRPなどの炎症マーカーや、発熱などの症状を著明に抑制するため、感染症の悪化を見過ごす可能性がある。

2. 本剤の成分に過敏症を示した患者。

3. 重篤な感染症(敗血症等)の患者。

4. 好中球1000/mm3未満、リンパ球500/mm3未満、ヘモグロビン値8g/dl未満のいずれかを示す患者。

5. 重度の肝機能障害を有する患者。

6. 妊婦、授乳婦、妊娠している可能性のある患者。

7. 悪性腫瘍を有する患者。


要注意事項

1. リウマチ専門医等の生物学的製剤治療の経験を十分に有する医師が勤務し、重篤な副作用が出現した際に、緊急かつ十分な対応が可能な施設で投与を行う事。

2. 国内外の臨床試験でB型肝炎およびB型肝炎ウイルス(HBV)再活性化が報告されている3)。 HBV感染者(キャリアおよび既往感染者)に対しては、日本リウマチ学会による「B型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制療法に関する提言」および日本肝臓学会「B型肝炎治療ガイドライン」を参考に対処する。C型肝炎ウイルス(HCV)感染者(キャリア)への本剤の投与例は少なく、一定の見解は得られていない。したがって、現時点ではキャリアへの投与は避けるのが望ましい。

3. 因果関係は明らかでないものの、多重がん・進行がんを含む悪性腫瘍、リンパ増殖性疾患の発現が国内外の臨床試験で報告されている3)。II相・III相・長期試験で認められた50例の悪性腫瘍のうち6例が死亡し、28例は投与開始後1年以内に認められた3)。本剤の高用量を用いたRA以外の臨床試験では中枢神経系・乳房などの稀な部位のリンパ増殖性疾患が報告されている。本剤群の、曝露当たりの悪性腫瘍発現率は、用量依存的かつ投与期間依存的に増加する傾向が認められている3)。これらの点を踏まえたリスク•ベネフィットを十分考慮し、患者に十分説明した上で、適応を慎重に判断する事。

4. 悪性腫瘍の既往歴・治療歴を有する患者、前癌病変(食道、子宮頸部、大腸など)を有する患者への投与は避ける事が望ましい。

5. 国内外での臨床試験において、結核、肺炎、敗血症、ウイルス感染などによる重篤な感染症および死亡例が報告されている3)。また、日本人を含むアジア人集団では、他の人種に比較して重篤感染症発現率が高かった3)

 なお、呼吸器感染はその頻度と生命予後への影響から重要であり、副作用対策の観点から以下の項目に注意をして投与を行う必要がある。また、本剤投与中に発熱、咳、呼吸困難などの症状が出現した場合は、細菌性肺炎・結核・ニューモシスチス肺炎・薬剤性肺障害・原疾患に伴う肺病変などを想定した対処を行う。フローチャートおよび「生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き(日本呼吸器学会)」等を参照のこと。

1) 肺炎などの感染症
  • 胸部X線撮影が即日可能であり、呼吸器内科専門医、放射線科専門医による読影所見が得られることが望ましい。
  • サイトカインシグナル伝達を阻害する事によって、CRPなどの炎症マーカーや、発熱、倦怠感といった症状が、感染症合併時に抑制される可能性があるため、特に臨床症候の変化に注意が必要である。
  • サイトカインを標的とする生物学的製剤の市販後調査で明らかにされた肺炎・重篤感染症危険因子4,5,6,7)が重複する患者(高齢、肺合併症、副腎皮質ステロイド投与、糖尿病、など)への本剤の使用は、治療上の有益性が危険性を大きく上回ると判断される場合にのみ投与する。また、本剤の特徴に関して、家族にも十分注意するよう指導する必要がある。
  • 呼吸器感染症予防のために、インフルエンザワクチンは可能な限り接種すべきであり、65歳以上の高齢者には肺炎球菌ワクチンの接種も積極的に考慮すべきである。
2) 結核・非結核性抗酸菌症
  • スクリーニング時には問診・インターフェロン-γ遊離試験(クオンティフェロン、T-SPOT)またはツベルクリン反応・胸部X 線撮影を必須とし、必要に応じて胸部CT撮影などを行い、肺結核を始めとする感染症の有無について総合的に判定する。
  • 結核の既感染者、胸部X 線写真で陳旧性肺結核に合致する陰影(胸膜肥厚、索状影、5 ㎜以上の石灰化影)を有する患者、インターフェロン-遊離試験あるいはツベルクリン反応が強陽性の患者は潜在性結核を有する可能性があるため、必要性およびリスクを十分に評価し慎重な検討を行った上で、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には本剤の開始を考慮してもよい。
  • 潜在性結核の可能性が高い患者では、本剤開始3週間前よりイソニアジド(INH)内服(原則として300mg/日、低体重者には5mg/kg/日に調節)を6~9 ヶ月行なう。
  • 非結核性抗酸菌感染症に対しては確実に有効な抗菌薬が存在しないため、同感染患者には原則として投与すべきでない。
3) ニューモシスチス肺炎
  • ニューモシスチス肺炎は、諸外国に比較して本邦関節リウマチ患者での発現頻度が非常に高く、本剤投与中においても報告例・死亡例が存在する。危険因子(高齢、肺合併症、副腎皮質ステロイド投与、糖尿病、末梢血リンパ球減少など)を複数有する患者では ST合剤などの予防投与を考慮する9)
4) ヘルペスウイルスを含むウイルス感染症
  • 国内外の臨床試験では帯状疱疹の発現頻度の上昇が報告されている。また、ヘルペスウイルスの再活性化によると思われるは種性帯状疱疹を含む重篤な帯状疱疹が報告されている3)。投与開始前に初発症状と早期受診を患者に説明し、重篤化を防止する。特に、帯状疱疹の既往のある患者では、治療上の有益性が危険性を大きく上回ると判断される場合にのみ、投与することが望ましい。このほか、Epstein-Barrウイルス、サイトメガロウイルスの再活性化なども報告されている。

6. 本剤投与中は、定期的に、好中球数、リンパ球数、ヘモグロビン値を測定し、好中球1000/mm3未満、リンパ球500/mm3未満、ヘモグロビン8g/dl未満または2g/dl以上の低下を示した場合は、本剤の投与を中止し、原因を精査する。

7. 本剤投与によってコレステロール値、中性脂肪値等の脂質系の検査項目の上昇が報告されている9)ため、必要に応じて、日本動脈硬化学会動脈硬化性疾患予防ガイドラインなどにのっとり脂質異常症治療薬の投与を行うことが推奨される。

8. 肝機能障害が出現する事がある3)ため、本剤投与中は、定期的にトランスアミナーゼ値を測定するなど慎重に観察し、異常が認められた場合は適切な処置を行う。

9. 本剤投与中に消化管穿孔を起こした症例の報告がある3)。憩室炎の既往・合併例には慎重な投与が必要である。なお、消化管穿孔が疑われる症状が認められた場合には、腹部 X線検査、CT検査等を実施する。

10. 本剤投与中に間質性肺炎を起こした症例の報告がある3)。早期発見・治療のため、投与中は定期的に呼吸器症状、経皮的酸素濃度、胸部画像検査を行う。

11. 本剤投与中の周術期リスク、また、手術後の創傷治癒に関するエビデンスは十分でない。現段階では、周術期には本剤の休薬を含む慎重な対応を行い、局所症状に注意して手術部位感染(SSI)の早期発見に努める。SSIの診断においては、CRP、白血球数も参考とするが、休薬による関節リウマチの再燃との鑑別が必要である。手術後は創がほぼ完全に治癒し、感染の合併がないことを確認した後の再投与が望ましい。

12. 肝機能障害、腎機能障害を有する患者、潜在的な生理機能の低下が考えられる高齢者等では本剤の曝露量が増える可能性があるため、患者の状態に応じて本剤5mgを1日1回など、減量を考慮する3)

13. 本剤は、CYP3A4、及び一部CYP2C19により代謝される3)。代謝阻害作用のある薬剤(マクロライド系抗生物質、ノルフロキサシン、アゾール系抗真菌薬、カルシウム拮抗薬、アミオダロン、シメチジン、フルボキサミン、抗HIV薬、テラブレビルなどのC型肝炎抗ウイルス薬、フルコナゾール、タクロリムス、シクロスポリンなど) と併用する場合には、トファシチニブの効果が増強される可能性があるため、本剤5mgを1日1回に減量するなど用量に注意する。一方、CYP3A4誘導薬(抗てんかん薬、リファンピシン、リファブチン、モダフィニルなど)との併用では、効果が減弱する可能性がある。

参考文献
1)  Mod Rheumatol. 2013;23(3):415
2)  Curr Opin Rheumatol. 2013 May;25(3):391
3) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 ゼルヤンツ®(トファシチニブクエン酸塩)審査結果報告書.
4)  Ann Rheum Dis. 2008 Feb;67(2):189
5)  J Rheumatol. 2009 May;36(5):898
6)  Ann Rheum Dis. 2011. Dec;70(12):2148
7)  Mod Rheumatol. 2012 Aug;22(4):498
8)  N Engl J Med. 2007 Nov 1;357(18):1874
9)  Ann Rheum Dis. 2014;73(5)871-82.

  

一般社団法人 日本リウマチ学会
調査研究委員会
生物学的製剤使用ガイドライン策定小委員会
委員長 竹内 勤
(2014.6.29)

更新記録
2013年6月 全例市販後調査のためのトファシチニブ使用ガイドライン初版策定
2014年6月 改訂第2版