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関節リウマチ(RA)に対するトシリズマブ使用ガイドライン (2017年3月21日改訂版)

 トシリズマブは、IL-6のシグナル伝達を阻害することによって抗リウマチ効果を示す薬剤である。2008年 4月に本邦で RAの適応が承認された。欧州においては 2009年1月に、米国においても 2010年 1月に承認された。さらに、 2013年にトシリズマブの皮下注製剤が承認された。近年、関節リウマチ治療薬による免疫抑制の結果、帯状疱疹などのウイルス感染のリスクの上昇が指摘されている。また、その予防としてのワクチン接種の重要性が認識され、欧米の学会からワクチン接種に関するリコメンデーションが公表されている。今回、ガイドラインの一部を改訂し、日本人のエビデンスと欧米でのガイドラインを参考にして、ワクチン接種の注意事項に関する項目を追加した。

ガイドラインの目的

 トシリズマブは、関節リウマチ患者の臨床症状の改善・関節破壊進行の抑制・身体機能の改善に有効であることが本邦での臨床試験により証明された薬剤であるが、投与中に重篤な有害事象を合併する可能性がある。本ガイドラインは、国内で実施された治験の結果を基に、トシリズマブ投与中の有害事象の予防・早期発見・治療のための対策を提示し、各主治医が適正に薬剤を使用することを目的とする。

対象患者

1. 既存の抗リウマチ薬(DMARD)註1)通常量を3ヶ月以上継続して使用してもコントロール不良の関節リウマチ患者。コントロール不良の目安として以下の 3項目を満たす者。

  • 疼痛関節数6関節以上
  • 腫脹関節数6関節以上
  • CRP2.0mg/dL 以上あるいは ESR28mm/hr 以上

これらの基準を満たさない患者においても、

  • 画像検査における進行性の骨びらんを認める
  • DAS28-ESR が 3.2(moderate activity)以上

のいずれかを認める場合も使用を考慮する。

2. さらに、日和見感染に対する安全性を配慮して以下の 3項目も満たすことが望ましい。

  • 末梢血白血球4000/mm3以上
  • 末梢血リンパ球数1000/mm3以上
  • 血中β-D-グルカン陰性

註1) 既存の抗リウマチ薬とは、メトトレキサート、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、レフルノミド、タクロリムス、生物学的製剤のインフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、ゴリムマブ、アバタセプト、セルトリズマブぺゴルのいずれかを指す。

用法・用量

1. 点滴静注用製剤

  • ―体重1kgあたり8mgを100~250mLの日局生理食塩水に加え希釈し、4週間隔で点滴静注する。
  • 投与開始時は緩徐に点滴静注を行い、患者の状態を十分に観察し、異常がないことを確認後、点滴速度を速め1時間程度で投与する。

2. 皮下注製剤

  • 162mgを1日1回、2週間に1回、皮下注射する。
  • 自己注射に移行する場合には、患者の自己注射に対する適性を見極め、十分な指導を実施した後で移行すること。

投与禁忌

1. 活動性結核を含む,重篤な感染症を合併している。

  • 明らかな活動性を有している感染症を保有する患者においては、その種類に関係なく感染症の治療を優先し、感染症の治癒を確認後に本剤の投与を行う。本剤は、CRPなどの炎症マーカーや、発熱などの症状を著明に抑制するため、感染症の悪化を見過ごす可能性がある。
  • 慢性活動性 EBウイルス感染(CAEBV)を伴う関節リウマチ患者に本剤の投与がなされ、その急激な悪化により死亡した症例の報告1)があり、CAEBVを伴う患者への本剤の投与は避ける。

2. 本剤は、トシリズマブに過敏症を示した患者には投与すべきではない。

要注意事項

1. 本邦での本剤の臨床試験、製造販売後全例調査最終解析結果において、感染症が最多の重篤有害事象である2),3)。最終解析の結果から重篤感染症の危険因子として以下が認められた。

  • 本剤投与期間中の併用副腎皮質ステロイドが5mg/日を超える場合(プレドニゾロン換算)
  • 呼吸器系疾患の既往・合併
  • 罹病期間10 年以上
  • 65 歳以上の高齢者

なお、呼吸器感染はその頻度と生命予後への影響から重要であり、副作用対策の観点から以下の項目に注意をして投与を行う必要がある。また、本剤投与中に発熱、咳、呼吸困難などの症状が出現した場合は、細菌性肺炎・結核・ニューモシスチス肺炎・薬剤性肺障害・原疾患に伴う肺病変などを想定した対処を行う。フローチャートおよび「生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き(日本呼吸器学会)」等を参照のこと。

1) 肺炎などの感染症
  • 胸部X線撮影が即日可能であり、呼吸器内科専門医、放射線科専門医による読影所見が得られることが望ましい。
  • IL-6は、炎症性疾患、感染、悪性腫瘍などで高産生となることが知られている。IL-6は、CRPなどの炎症マーカーを上昇させるのみでなく、発熱、倦怠感といった症状とも関連する。従って、本剤の投与によって、感染症・悪性腫瘍に伴う IL-6依存性の症状・検査所見の出現が抑制されるためにそれらの合併を見逃す可能性があり、特に臨床症候の変化に注意が必要である。
  • ショックあるいは呼吸困難を示した重症肺炎症例があり、前日まで症状がなくイベントの起きた日に来院し肺炎と診断されている4)。このような症例では,感染の早期の症状が抑制され、重症化して初めて診断された可能性がある。このため、本剤投与中には、軽微な感染症状でも主治医に相談するよう患者に指導する。
  • 上記の重篤感染症危険因子が重複する患者への本剤の使用は、治療上の有益性が危険性を大きく上回ると判断される場合にのみ投与する。また、本剤の特徴に関して、家族にも十分注意するよう指導する必要がある。
  • 呼吸器感染症予防のために、インフルエンザワクチンは可能な限り接種すべきであり、65歳以上の高齢者には肺炎球菌ワクチンの接種も積極的に考慮すべきである。

2) 結核・非結核性抗酸菌症
  • スクリーニング時には、問診・インターフェロンγ遊離試験(クオンティフェロン、T-SPOT)またはツベルクリン反応・胸部X線撮影を必須とし、必要に応じて胸部 CT撮影などを行い、肺結核を始めとする感染症の有無について総合的に判定する。
  • 結核の既感染者、胸部X線写真で陳旧性肺結核に合致する陰影(胸膜肥厚、索状影、5mm以上の石灰化影)を有する患者、インターフェロンγ遊離試験あるいはツベルクリン反応が強陽性の患者は潜在性結核を有する可能性があるため、必要性およびリスクを十分に評価し慎重な検討を行った上で、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には本剤の開始を考慮してもよい。
  • 潜在性結核の可能性が高い患者では、本剤開始3週間前よりイソニアジド(INH)内服(原則として 300mg/日、低体重者には 5mg/kg/日に調整)を6~9ヶ月行う。
  • 非結核性抗酸菌感染症に対しては確実に有効な抗菌薬が存在しないため、同感染患者には原則として投与すべきでないが、患者の全身状態、RAの活動性・重症度、菌種、画像所見、治療反応性、治療継続性等を慎重かつ十分に検討したうえで、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には本剤の開始を考慮してもよい。その場合には一般社団法人日本呼吸器学会呼吸器専門医との併診が望ましい。「生物学的製剤と呼吸器疾患 診療の手引き(日本呼吸器学会編集)」等を参照のこと。

3) ニューモシスチス肺炎
  • ニューモシスチス肺炎は、頻度は多くないが本邦関節リウマチ患者での合併が近年重要視されており、本剤投与中においても報告例が存在する。リスクが多い患者(高齢、肺合併症、副腎皮質ステロイド投与、末梢血リンパ球減少など)では ST合剤などの予防投与を考慮する。

2. 本剤の投与に先立って、B型肝炎ウイルス感染の有無を確認すること。B型肝炎ウイルス(HBV)感染者(キャリアおよび既往感染者)に対して本剤を投与する場合は、肝機能検査値や肝炎ウイルスマーカーのモニタリングを行うなど、日本リウマチ学会による「B型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制療法に関する提言」および日本肝臓学会「B型肝炎治療ガイドライン」を参考に対処する5)。C 型肝炎ウイルス(HCV)感染者(キャリア)への本剤の投与例は少なく、一定の見解は得られていない。したがって、現時点ではキャリアへの投与は避けるのが望ましいが、治療上の有益性が危険性を大きく上回ると判断される場合には、本剤の開始を考慮してもよい。

3. 製造販売後長期フォローアップ調査最終解析結果6)において、心機能障害の経時的な上昇は認められなかったが、虚血性心疾患・心不全などの重篤な心機能障害の発現(0.41/100人年)が認められている。発現例においては、心機能障害の既往・合併をもつ患者が多く含まれていた。このため、心機能障害の合併・既往のある患者に投与する場合には、必要に応じて循環器内科専門医にコンサルテーションし、あるいは心筋梗塞二次予防に関するガイドラインなどを参考にして慎重に管理する6)。また、長期フォローアップ調査の最終解析結果において、脂質異常症を発現した症例と発現しなかった症例の虚血性心疾患を含む心機能障害の発現率は同様であったが、本剤投与により、コレステロール、中性脂肪等の脂質系の検査項目の上昇がしばしば認められる8)ため、必要に応じて、日本動脈硬化学会動脈硬化性疾患予防ガイドラインなどにのっとり脂質異常症治療薬の投与を行うことが推奨される。

4. 製造販売後全例調査最終解析結果3)において肝機能障害の危険因子として、肝機能障害の既往・合併、MTX併用、抗結核薬併用、BMI値として25kg/m2以上の肥満が認められたため、これらの患者では定期的に肝機能検査を実施することが望ましい。

5. 製造販売後全例調査最終解析結果3)において間質性肺炎の危険因子として、間質性肺炎の既往・合併、65歳以上の高齢、喫煙歴が認められた。これらの患者の投与に際しては発熱、咳、呼吸困難等の呼吸器症状に十分注意し、異常が認められた場合には、速やかに胸部X線検査、CT検査等を実施する。

6. 本剤投与中に消化管穿孔を起こした症例の報告がある。憩室炎の既往・合併例には慎重な投与が必要である。なお、消化管穿孔が疑われる症状が認められた場合には、腹部X線検査、CT検査等を実施する。

7. 副腎皮質ステロイドは、感染症発症の重要な危険因子であることが示されており、トシリズマブが有効な場合には減量を進め、可能であれば中止することが望ましい。

8. 本剤投与により、アナフィラキシーショックを含む重篤なinfusion reactionが起こる可能性があることを考慮し、点滴施行中のベッドサイドで気道確保、酸素、エピネフリン、副腎皮質ステロイドの投与など、緊急処置が直ちにできる環境が必要である。

9. 本剤が血中に残っている間に手術が施行されると、術後CRP上昇が認められない、更にWBC上昇も正常範囲に留まることが指摘されている9)。従って、本剤投与中に手術を施行する場合にはCRPや白血球数に依存せず、局所症状に注意して手術部位感染(SSI)の早期発見に努める9),10)。また、手術後に創傷治癒が遅延する可能性がある。

10. ヒトIgGは胎盤、乳汁へ移行することが知られており、本剤も同様である。従って、胎児あるいは乳児に対する安全性は確立されていないため、投与中は妊娠、授乳は回避することが望ましい。ただし、現時点では、動物実験およびヒトへの使用経験において胎児への毒性および催奇形性についての報告は存在しないため、意図せず胎児への暴露が確認された場合は、ただちに母体への投与を中止して慎重な経過観察のみ行うことを推奨する。

11. 製造販売後長期フォローアップ調査最終解析結果6)において、悪性腫瘍の発現率の経時的な上昇は認められなかった。本剤の投与による悪性腫瘍発現への影響は示唆されていないが、本剤投与中に悪性腫瘍を認めた症例の報告があることから、現時点では、悪性腫瘍の既往歴・治療歴を有する患者、前癌病変(食道、子宮頸部、大腸など)を有する患者への投与は避けるのが望ましい。

12. 帯状疱疹(水痘)、麻疹、風疹、おたふくかぜ、BCGなどの生ワクチン接種は, トシリズマブ投与中は禁忌である。また, 生ワクチン接種は、本剤投与中止後、3~6ヶ月の間隔を空けることが望ましい。接種に際しては併用薬剤や年齢・肝、腎機能障害など患者背景を考慮する必要がある。特に妊娠後期に本剤を投与した場合は、乳児の生ワクチン接種で感染のリスクが高まる可能性があるので、少なくとも生後6か月頃までは生ワクチンを接種しないことが望ましい。11)

参考文献
1)  Ann Rheum Dis 2006: 65: 1667
2)  Mod Rheumatol 2010:20:222
3)  アクテムラ点滴静注用80mg, 200mg, 400mg 全例調査最終報告「関節リウマチ」
  「多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎」
4)  Mod Rheumatol 2009:19:64
5)  http://www.jsh.or.jp/doc/guidelines/HBV_GL_ver2.201406.pdf
6)  アクテムラ点滴静注用80mg, 200mg, 400mg 長期フォローアップ調査最終報告「関節リウマチ」
7)  http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_ogawah_h.pdf
8)  Arthritis Rheum 2004: 50 : 1761
9)  Ann Rheum Dis. 2009:68:654
10)  Mod Rheumatol 2013:23:440
11)  Mod Rheumatol 2014:25:335

  

一般社団法人 日本リウマチ学会
調査研究委員会
生物学的製剤使用ガイドライン策定小委員会
委員長 杉山 英二
(2017.3.21)

更新記録
2008年7月  関節リウマチ(RA)に対するトシリズマブ使用ガイドライン初版策定
2010年7月  改訂第2版
2012年7月  改訂第3版
2013年6月  改訂第4版
2014年6月  改訂第5版
2014年11月 改訂第6版
2017年3月  改訂第7版