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医薬・医療情報

関節リウマチ(RA)に対するTNF阻害療法施行ガイドライン(2010年改訂版)

TNF阻害薬が関節リウマチ(RA)の治療に導入され、現在、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブの3剤が使用可能である。
RAにおいては、これらの生物学的製剤の高い治療効果をもとに、治療目標が著しく変化して、「全ての患者において臨床的寛解、もしくは、少なくとも低疾患活動性を目指す」ことが世界的なコンセンサスとなった。本邦においても、厚生労働省の研究班において、臨床的寛解の維持を目標とし、バイオフリー、ドラッグフリー寛解の可能性も視野に入れたRAの治療目標を提言している1)
また、2008年の米国リウマチ学会治療勧告(recommendation)2)や、2010年の欧州リウマチ学会治療勧告3)では、RA患者を早期に診断して速やかにメトトレキサート(MTX)の使用を開始すること、必要な患者には生物学的製剤を早期から使用することが推奨された。 このような背景をふまえ、本ガイドラインを従来通り、TNF阻害薬を安全かつ効果的に投与するためのものとして位置づける。このたび、各製剤の用法・用量が変更され、アダリムマブ全例市販後調査の中間解析結果もまとまったことから、本ガイドラインを一部改訂した。

ガイドラインの目的

TNF阻害薬は、関節リウマチ患者の臨床症状改善・関節破壊進行抑制・身体機能の改善が最も期待できる薬剤であるが、投与中に重篤な有害事象を合併する可能性がある。本ガイドラインは、国内外の市販前後調査結果や使用成績報告をもとに、TNF阻害薬投与中の有害事象の予防・早期発見・治療のための対策を提示し、各主治医が適正に薬剤を使用することを目的に作成した。

対象患者

1. 既存の抗リウマチ薬(DMARD)註1)通常量を3ヶ月以上継続して使用してもコントロール不良のRA患者。コントロール不良の目安として以下の3項目を満たす者。

  • 圧痛関節数6関節以上
  • 腫脹関節数6関節以上
  • CRP 2.0mg/dl以上あるいはESR 28mm/hr以上

これらの基準を満たさない患者においても、

  • 画像検査における進行性の骨びらんを認める
  • DAS28-ESRが3.2(moderate activity)以上

のいずれかを認める場合も使用を考慮する。

2. さらに日和見感染症の危険性が低い患者として以下の3項目も満たすことが望ましい。

  • 末梢血白血球数4000/mm3以上
  • 末梢血リンパ球数1000/mm3以上
  • 血中βD-グルカン陰性

註1) インフリキシマブの場合には、既存の治療とはMTX 6~8mg/週を指す。エタネルセプトとアダリムマブの場合には、既存の治療とは本邦での推奨度Aの抗リウマチ薬である、MTX、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、レフルノミド、タクロリムスのいずれかを指す。

用法・用量 註2)

1.インフリキシマブ

  • 生理食塩水に溶解し、体重1kgあたり3mgを緩徐に(2時間以上かけて)点滴静注する。
  • 初回投与後、2週後、6週後に投与し、以後8週間隔で投与を継続する。
  • 6週の投与以後、効果不十分又は効果が減弱した場合には、段階的に10mg/kgまでの増量と最短4週間まで投与間隔の短縮を行うことができる。但し、投与間隔を短縮する場合は6mg/kgを上限とする。

2.エタネルセプト

  • 10-25mgを1日1回、週に2回、又は25-50mgを1日1回、週に1回、皮下注射する。
  • 自己注射に移行する場合には患者の自己注射に対する適性を見極め、充分な指導を実施した後で移行すること。

3.アダリムマブ

  • 40mgを1日1回、2週間に1回、皮下注射する。
  • なお、効果不十分の場合、1回80mgまで増量できる。ただし、メトトレキサートなどの抗リウマチ薬を併用する場合には、80mg隔週への増量は行わないこと。
  • 自己注射に移行する場合には、患者の自己注射に対する適性を見極め、十分な指導を実施した後で移行すること。

註2)インフリキシマブはMTXと併用する。エタネルセプトおよびアダリムマブは単独使用が可能であるが、MTXとの併用で有効性の向上と同等の安全性が確認されている。

投与禁忌および慎重投与

1. 活動性結核を含む感染症を有している。

  • B型肝炎ウイルス(HBV)感染者に対しては、TNF阻害薬投与に伴いウイルスの活性化および肝炎悪化が報告されており、投与すべきではない4)。C型肝炎ウイルス(HCV)感染者に対しては、一定の見解は得られていないが、TNF阻害療法開始前に感染の有無に関して検索を行い、陽性者においては慎重な経過観察を行なうことが望ましい。。
  • 非結核性抗酸菌感染症に対しては有効な抗菌薬が存在しないため、同感染患者には原則として投与すべきでない。

2. 胸部X線写真で陳旧性肺結核に合致する陰影 (胸膜肥厚、索状影、5㎜以上の石灰化影)を有する。ただし、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には必要性およびリスクを十分に評価し、慎重な検討を行った上で本剤の開始を考慮する。

3. 結核の既感染者。ただし、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には、必要性およびリスクを十分に評価し、慎重な検討を行った上で本剤の開始を考慮する。

4. NYHA分類III度以上のうっ血性心不全を有する。II度以下は慎重な経過観察を行う。
※NYHA(New York Heart Association)心機能分類(1964年)

  • I度:心臓病を有するが、自覚的運動能力に制限がないもの
  • II度:心臓病のため、多少の自覚的運動能力の制限があり、通常の運動によって、疲労・呼吸困難・動悸・狭心痛等の症状を呈するもの
  • III度:心臓病のため、著しい運動能力の制限があり、通常以下の軽い運動で症状が発現するもの
  • IV度:心臓病のため、安静時でも症状があり、最も軽い運動によっても、症状の増悪がみられるもの

5.悪性腫瘍、脱髄疾患を有する。

要注意事項

1.本邦および海外のTNF阻害薬の市販後調査において、重篤な有害事象は感染症が最多である特に結核・日和見感染症のスクリーニング・副作用対策の観点から、以下の項目が重要である。

  • 胸部X線写真撮影が即日可能であり、呼吸器内科専門医、放射線科専門医による読影所見が得られることが望ましい。
  • 日和見感染症を治療できる。スクリーニング時には問診・ツベルクリン反応・胸部X線撮影を必須とし、必要に応じて胸部CT撮影などを行い、肺結核を始めとする感染症の有無について総合的に判定する。その他、インターフェロン-γ遊離試験キット(クオンティフェロン)は結核スクリーニングの補助的診断として有用である。結核感染リスクが高い患者では、TNF阻害薬開始3週間前よりイソニアジド(INH)内服(原則として300mg/日、低体重者には5mg/kg/日に調節)を6~9ヶ月行なう。
  • スクリーニング時にツベルクリン反応等の検査が陰性の患者や、抗結核薬による予防投与がなされていた患者からも投与後活動性結核が認められたとの報告がある。TNF阻害薬による治療期間中は結核の発現に留意し、患者観察を行う。
  • 感染症のリスク因子の存在や全身状態について十分に評価した上で本剤投与を考慮する。本邦における市販後全例調査において、以下のような感染症リスク因子が明らかになっている5) 6)
  • 感染症リスクの高い患者では、発熱や呼吸困難などの症状出現に留意するほか、胸部画像所見の推移や血中リンパ球数、β-Dグルカン、KL-6などの検査値の推移にも留意する。
  •   肺炎のリスク因子 重篤な感染症のリスク因子
    インフリキシマブ5) 男性・高齢者・Stage Ⅲ以上。既存肺疾患 高齢・既存肺疾患・副腎皮質ステロイド併用
    エタネルセプト6) 高齢・既存肺疾患・副腎皮質ステロイド併用 高齢・既存肺疾患・非重篤感染症合併・ClassⅢ以上、副腎皮質ステロイド併用


  • TNF阻害療法施行中に肺炎を発症した場合は、通常の市中肺炎とは異なり結核・ニューモシスチス肺炎・薬剤性肺障害・原疾患に伴う肺病変などを想定した対処を行う(フローチャート参照)。
  • 呼吸器感染症予防のために、インフルエンザワクチンは可能な限り接種すべきであり、65歳以上の高齢者には肺炎球菌ワクチン接種も考慮すべきである。
  • 本邦での市販後全例調査において、ニューモシスチス肺炎の多発が報告されており7)、高齢・既存の肺疾患・副腎皮質ステロイド併用などの同肺炎のリスク因子を有する患者ではST合剤などの予防投与を考慮する。
  • 副腎皮質ステロイド投与は、感染症合併の危険因子であることが示されている8)。TNF阻害療法が有効な場合は減量を進め、可能であれば中止することが望ましい。

2.インフリキシマブ投与においてInfusion reaction (投与時反応)の中でも重篤なもの (アナフィラキシーショックを含む)が起きる可能性があることを十分に考慮し、その準備が必要である。

  • 緊急処置を直ちに実施できる環境:点滴施行中のベッドサイドで、気道確保、酸素、エピネフリン、副腎皮質ステロイドの投与ができる。
  • 本邦における市販後調査において、治験でインフリキシマブを使用し2年間以上の中断の後に再投与を行なった症例で重篤なInfusion reaction (投与時反応)の頻度が有意に高かったため、長期間の中断や休薬の後の再投与は特に厳重な準備とともに行なうことが望ましい。

3.手術後の創傷治癒、感染防御に影響がある可能性があり、外科手術はTNF阻害薬の最終投与より2~4週間(インフリキシマブでは半減期が長いため4週間)の間隔の後に行なうことが望ましい。手術後は創がほぼ完全に治癒し、感染の合併がないことを確認できれば再投与が可能である。

4.TNF阻害薬の胎盤、乳汁への移行が確認されている。胎児あるいは乳児に対する安全性は確立されていないため、投与中は妊娠、授乳は回避することが望ましい。現時点では動物実験およびヒトヘの使用経験において、胎児への毒性および催奇形性を明らかに示した報告は存在しないが、意図せず胎児への曝露が確認された場合は、ただちに母体への投与を中止して慎重な経過観察を行うことを推奨する。

5.TNF阻害薬はその作用機序より悪性腫瘍発生の頻度を上昇させる可能性が懸念され、全世界でモニタリングが継続されているが、現時点では十分なデータは示されていない。今後モニタリングを継続するとともに、悪性腫瘍の既往歴・治療歴を有する患者、前癌病変(食道、子宮頚部、大腸など)を有する患者への投与は慎重に検討すべきである。

参考文献
1)厚生労働省研究班『寛解導入療法の体系化に関する研究班』報告書
2) Arthritis Rheum 2008; 59: 762
3) Ann Rheum Dis 2010; 69: 964
4) Ann Rheum Dis 2006; 65: 983
5) Ann Rheum Dis 2008; 67: 189
6) Arthritis Rheum 2007; 56: S182
7) N Engl J Med 2007; 357: 1874
8) Arthritis Rheum 2006; 54: 628

  

一般社団法人 日本リウマチ学会
JCR 調査研究委員会
生物学的製剤使用ガイドライン策定小委員会
委員長 竹内 勤
(2010.9.30)