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関節リウマチ(RA)に対するアバタセプト使用ガイドライン (2017年3月21日改訂版)

 アバタセプトは、CTLA-4分子の細胞外ドメインとヒト免疫グロブリンIgG1のFc領域からなる可溶性融合蛋白で、抗原提示細胞表面のCD80/86に結合することで、T細胞の活性化を阻害し、抗リウマチ効果を示す薬剤である。海外では米国、欧州で関節リウマチ治療薬として承認され、有効性および安全性が報告されている1)。本邦では2010年に静注製剤、2013年に皮下注製剤が承認された。日本人における有効性及び安全性に関する十分なデータは存在しないため、国内外の臨床試験および海外での市販後調査の成績を参考にして、ガイドラインを作成した。近年、関節リウマチ治療薬による免疫抑制の結果、帯状疱疹などのウイルス感染のリスクの上昇が指摘されている。また、その予防としてのワクチン接種の重要性が認識され、欧米の学会からワクチン接種に関するリコメンデーションが公表されている。今回、ガイドラインの一部を改訂し、日本人のエビデンスと欧米でのガイドラインを参考にして、ワクチン接種の注意事項に関する項目を追加した。

ガイドラインの目的

 アバタセプトは、関節リウマチ患者の臨床症状の改善・関節破壊進行抑制・身体機能の改善が期待できる薬剤であるが、投与中に重篤な有害事象を合併する可能性がある。本ガイドラインは、国内外での臨床試験および海外での市販後調査の成績を基に、アバタセプト投与中の有害事象の予防・早期発見・治療のための対策を提示し、各主治医が適正に薬剤を使用することを目的とする。

対象患者

1. 既存の抗リウマチ薬(DMARD)註1)通常量を3ヶ月以上継続して使用してもコントロール不良の関節リウマチ患者。コントロール不良の目安として以下の3項目を満たす者。

  • 疼痛関節数6関節以上
  • 腫脹関節数6関節以上
  • CRP 2.0mg/dL以上あるいはESR 28mm/hr以上

2. さらに、日和見感染に対する安全性を配慮して以下の3項目も満たすことが望ましい。

  • 末梢血白血球 4000/mm3以上
  • 末梢血リンパ球数 1000/mm3以上
  • 血中β-D-グルカン陰性

註1) 既存の治療とは、メトトレキサート、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、レフルノミド、タクロリムス、生物学的製剤のインフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、トシリズマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブペゴルを指す。

用法・用量

1. 点滴静注用製剤

  • 体重別の用量[<60Kgで500mg(2バイアル)、60~100Kgで750mg(3バイアル)、>100Kgで1000mg(4バイアル)]を1バイアルあたり10mLの日局注射用水(日局生理食塩液も使用可)で溶解後、日局生理食塩液(100mL)で希釈し、30分かけて点滴静注する。
  • 初回投与後、2週後、4週後に投与し、以後4週間隔で投与を継続する。

2. 皮下注用製剤
 投与初日に負荷投与(loading dose)として点滴静注を行った後、同日中に125mgを1日1回の皮下注射を行い、その後、週1 回、皮下注射する。
 また、125mgを1日1回、週1 回、皮下注射から開始することもできる。
 アバタセプト点滴静注用製剤から皮下注製剤に切り替える場合、負荷投与は行わず、次に予定している点滴静注の代わりに初回皮下注射を行うこと。
 自己注射に移行する場合には、患者の自己注射に対する適性を見極め、十分な指導を実施した後で移行すること。s

投与禁忌

1. 活動性結核を含む重篤な感染症を合併している。

  • 明らかな活動性を有している感染症を保有する患者においては、その種類に関係なく感染症の治療を優先し、感染症の治癒を確認後に本剤の投与を行う。

2. 本剤は、本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者には投与すべきではない。

要注意事項

1. アバタセプトの本邦での臨床試験および海外での臨床試験と市販後調査において、重篤な有害事象では感染症が最多である2)。特に呼吸器感染はその頻度と生命予後への影響から重要であり、副作用対策の観点から、以下の項目に注意して投与を行う必要が有る。

  • 胸部X線撮影が即日可能であり、呼吸器専門医、放射線専門医による読影所見が得られることが望ましい。
  • 日和見感染症を治療できる。スクリーニング時には問診・インターフェロン-γ遊離試験(クオンティフェロン、T-SPOT)またはツベルクリン反応・胸部X 線撮影を必須とし、必要に応じて胸部CT撮影などを行い、肺結核を始めとする感染症の有無について総合的に判定する。
  • 結核の既感染者、胸部X 線写真で陳旧性肺結核に合致する陰影(胸膜肥厚、索状影、5 ㎜以上の石灰化影)を有する患者、インターフェロン-γ遊離試験あるいはツベルクリン反応が強陽性の患者は潜在性結核を有する可能性があるため、必要性およびリスクを十分に評価し慎重な検討を行った上で、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には本剤の開始を考慮してもよい。
  • 潜在性結核の可能性が高い患者では、本剤開始3週間前よりイソニアジド(INH)内服(原則として300mg/日、低体重者には5mg/kg/日に調節)を6~9 ヶ月行なう。
  • 非結核性抗酸菌感染症に対しては確実に有効な抗菌薬が存在しないため、同感染患者には原則として投与すべきでないが、患者の全身状態、RAの活動性・重症度、菌種、画像所見、治療反応性、治療継続性等を慎重かつ十分に検討したうえで、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には本剤の開始を考慮してもよい。その場合には一般社団法人日本呼吸器学会呼吸器専門医との併診が望ましい。「生物学的製剤と呼吸器疾患 診療の手引き(日本呼吸器学会編集)」等を参照のこと。
  • 重篤な感染症罹患歴を有する場合は、リスク因子の存在や全身状態について十分に評価した上で本剤投与を考慮する。
  • 本剤投与中に発熱、咳、呼吸困難などの症状が出現した場合は、細菌性肺炎・結核・ニューモシスチス肺炎・薬剤性肺障害・原疾患に伴う肺病変などを想定した対処を行う。フローチャートおよび「生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き(日本呼吸器学会)」等を参照のこと。
  • 呼吸器感染症予防のために、インフルエンザワクチンは可能な限り接種すべきであり、65歳以上の高齢者には肺炎球菌ワクチン接種も考慮すべきである。
  • 本邦の関節リウマチ患者において、ニューモシスチス肺炎の合併が近年重要視されており、リスクが高い患者(高齢、肺合併症、副腎皮質ステロイド投与、末梢血リンパ球減少など)ではST合剤などの予防投与を考慮する。
  • 副腎皮質ステロイド投与は、感染症合併の危険因子であることが示されている。アバタセプトが有効な場合は、副腎皮質ステロイドの減量を進め、可能であれば中止することが望ましい。
  • 本剤とTNF阻害薬の併用は感染症および重篤な感染症のリスクを増加させることがあるため、併用をすべきではない3)。また、他の生物学的製剤との併用に関しては経験が少ないため併用を避けるべきである。

2. B型肝炎ウイルス(HBV)感染者(キャリアおよび既往感染者)に対しては、日本リウマチ学会による「B型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制療法に関する提言」および日本肝臓学会「B型肝炎治療ガイドライン」を参考に対処する4)。C型肝炎ウイルス(HCV)感染者(キャリア)への本剤の投与例は少なく、一定の見解は得られていない。したがって、現時点ではキャリアへの投与は避けるのが望ましいが、治療の有益性が危険性を大きく上回ると判断される場合には、本剤の開始を考慮してもよい。

3. 慢性閉塞性肺疾患のある患者に本剤を投与する場合には、慢性閉塞性肺疾患の増悪や気管支炎を含む重篤な副作用が発現するリスクが増加する3)ため、十分に注意しながら投与する必要がある。

4. 本剤投与により、アナフィラキシーショックを含む重篤なinfusion reactionが起こる可能性があることを考慮し、点滴施行中のベッドサイドで気道確保、酸素、エピネフリン、副腎皮質ステロイドの投与など、緊急処置が直ちにできる環境が必要である。

5. 帯状疱疹(水痘)、麻疹、風疹、おたふくかぜ、BCGなどの生ワクチン接種は,アバタセプト投与中は禁忌である。また, 生ワクチン接種は、本剤投与中止後、3~6ヶ月の間隔を空けることが望ましい。接種に際しては併用薬剤や年齢・肝、腎機能障害など患者背景を考慮する必要がある。特に妊娠後期に本剤を投与した場合は、乳児の生ワクチン接種で感染のリスクが高まる可能性があるので、少なくとも生後6か月頃までは生ワクチンを接種しないことが望ましい。5)

6. 手術後の創傷治癒、感染防御への影響に関しては経験が少なく確定はしていないが、創傷治癒が遅延したり、感染リスクが上昇したりする可能性がある。したがって本剤投与中に手術を施行する場合はアバタセプトの半減期(約10日)を考慮して、最終投与より一定間隔を空けて行うことが望ましい。手術後は創がほぼ完全に治癒し、感染の合併がないことを確認できれば再投与が可能である。

7. アバタセプトは胎盤、乳汁への移行が確認されている。胎児あるいは乳児に対する安全性は確立されていないため、アバタセプト投与中は妊娠、授乳は回避することが望ましい。現時点では、動物実験およびヒトへの使用経験において、胎児への毒性および催奇形性を明らかにした報告は存在しないが、意図せず胎児への曝露が確認された場合は、ただちに母体への投与を中止して慎重な経過観察を行うことを推奨する。

8. 海外の臨床試験および市販後成績では、アバタセプトの投与により悪性腫瘍の発生頻度が経時的に増加することは認められていない6)が、長期的な影響に関しては国内の市販後調査などの検討が待たれるところである。現時点では、悪性腫瘍の既往歴・治療歴を有する患者、前癌病変(食道、子宮頚部、大腸など)を有する患者への投与は避ける事が望ましい。

参考文献
1) Arthritis Rheum. 2005 Aug;52(8):2263
2) J Rheumatol. 2009 Apr;36(4):736
3) Arthritis Rheum. 2006 Sep;54(9):2807
4) http://www.jsh.or.jp/doc/guidelines/HBV_GL_ver2.201406.pdf
5) Mod Rheumatol 2014 Nov;25(3):335
6) Ann Rheum Dis. 2009 Dec;68(12):1819

  

一般社団法人 日本リウマチ学会
調査研究委員会
生物学的製剤使用ガイドライン策定小委員会
委員長 杉山 英二
(2017.3.21)

更新記録
2010年9月 関節リウマチ(RA)に対するアバタセプト使用ガイドライン初版策定
2014年6月 改訂第2版
2014年8月 改訂第3版
2017年3月 改訂第4版