トシリズマブは、IL-6のシグナル伝達を阻害することによって抗リウマチ効果を示す薬剤である。2008年4月に本邦でRAの承認が得られたが、米国及び欧州においては現時点(2008年7月)でいずれも申請中である。現在トシリズマブの市販後全例調査を実施中であるが、現時点ではその有効性及び安全性に関する十分なデータは存在しない。このため、現在までの国内外の臨床試験の成績を参考にして、以下のような暫定的なガイドラインを作成した。今後、市販後全例調査の結果に基づいて漸次改訂をする予定である。
トシリズマブは、関節リウマチ患者の臨床症状の改善・関節破壊進行の抑制・身体機能の改善に有効であることが本邦での臨床試験により証明された薬剤であるが、投与中に重篤な有害事象を合併する可能性がある。本ガイドラインは、国内で実施された治験の結果を基に、トシリズマブ投与中の有害事象の予防・早期発見・治療のための対策を提示し、各主治医が適正に薬剤を使用することを目的とする。
1. 既存の抗リウマチ薬(DMARD)註1)通常量を3ヶ月以上継続して使用してもコントロール不良の関節リウマチ患者。コントロール不良の目安として以下の3項目を満たす者。
2. さらに、日和見感染に対する安全性を配慮して以下の3項目も満たすことが望ましい。
註1)既存の治療とは、本邦での推奨度Aの抗リウマチ薬であるメトトレキサート、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、レフルノミド、タクロリムス、生物学的製剤のインフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブを指す。
1. 重篤な感染症を合併している。
2. 本剤は、トシリズマブに過敏症を示した患者には投与すべきではない。
1. 本邦での本剤の臨床試験において、感染症が最多の重篤有害事象である2)。特に、呼吸器感染はその頻度と生命予後への影響から重要であり、副作用対策の観点から以下の項目に注意をして投与を行う必要がある。また、トシリズマブ投与中に発熱、咳、呼吸困難などの症状が出現した場合は、細菌性肺炎・結核・ニューモシスチス肺炎・薬剤性肺障害・原疾患に伴う肺病変などを想定した対処を行う。
1)肺炎などの感染症
2)結核・非結核性抗酸菌症
3)ニューモシスチス肺炎
4)憩室穿孔
5)ウイルス性肝炎
2. 本剤投与により、コレステロール、中性脂肪等の脂質系の検査項目の上昇がしばしば認められる4)。必要に応じて、高脂血症治療ガイドラインにのっとり高脂血症治療薬の投与を行う。本事象により、心血管系の有害事象の頻度が上昇したとの報告は現時点ではない。一方、本剤が虚血性心疾患を合併している患者に投与された経験は少数例しかないが、そのような疾患の合併患者においては定期的な心電図の確認をしながら慎重に投与する。
3. 本邦では、本剤と他のDMARDとの併用実績はない。海外ではMTXを中心に本剤との併用した成績が報告されているが、副作用として肝機能検査異常の頻度が高くなることが知られている5)。本邦にて承認されているMTXの用量による結果は不明であるが、MTXとの併用時においては定期的な肝機能検査を実施することが望ましい。
4. ステロイド薬は、感染症合併の危険因子であることが示されている。トシリズマブが有効な場合には減量を進め、可能であれば中止することが望ましい。
5. 本剤投与により、アナフィラキシーショックを含む重篤なinfusion reactionが起こる可能性があることを考慮し、点滴施行中のベッドサイドで気道確保、酸素、エピネフリン、副腎皮質ステロイド薬の投与など、緊急処置が直ちにできる環境が必要である。
6. 手術後の創傷治癒に関しては例数が少なく確定はしていないが、創傷治癒が遅延する可能性がある。本剤の血中濃度が残っている間に手術が施行されると、感染があってもCRPが上昇しない可能性がある。従って、本剤投与中に手術を施行する場合にはCRPに依存せず、白血球などの推移に注意して感染症をチェックする。
7. ヒトIgGは胎盤、乳汁へ移行することが知られており、本剤も同様である。従って、胎児あるいは乳児に対する安全性は確立されていないため、投与中は妊娠、授乳は回避することが望ましい。ただし、現時点では、動物実験およびヒトへの使用経験において児への毒性および催奇形性の報告は存在しないため、意図せず胎児への暴露が確認された場合は、ただちに母体への投与を中止して慎重な経過観察のみ行うことを推奨する。
8. 本剤の投与により悪性腫瘍の発生頻度が上昇するというデータは現時点で示されていない6)。今後、製造販売後の調査にて長期的な検討が待たれるところであるが、現時点では、悪性腫瘍の既往歴・治療歴を有する患者、前癌病変(食道、子宮頚部、大腸など)を有する患者への投与は避けるのが望ましい。
参考文献
1) Ann Rheum Dis 2006: 65: 1667
2) Ann Rheum Dis 2008: 67(Suppl): 478
3) Mod Rheumatol 2008: 18(Suppl): 86
4) Arthritis Rheum 2004: 50 : 1761
5) Arthritis Rheum 2006: 54: 2817
6) Ann Rheum Dis 2007: 66(Suppl): 122
有限責任中間法人 日本リウマチ学会
リウマチ性疾患治療薬検討委員会
委員長 宮坂信之
(2008.7.24)