本邦では現時点(2008年7月)において、TNF阻害薬としてはインフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブの3種が使用可能である。このうちインフリキシマブ及びエタネルセプトは、日本における市販後全例調査によって有効性及び安全性のプロフィルが明らかとなっている。一方、アダリムマブについては、現在市販後全例調査を実施中であるため、日本人における有効性及び安全性に関する十分なデータは存在しない。このため、現在までの国内外の臨床試験及び海外での市販後調査の成績を参考にして、以下のような暫定的なガイドラインを作成した。今後、市販後全例調査の結果に基づいて漸次改訂をする予定である。
アダリムマブは、関節リウマチ患者の臨床症状改善・関節破壊進行抑制・身体機能の改善が最も期待できる薬剤であるが、投与中に重篤な有害事象を合併する可能性がある。本ガイドラインは、国内外の臨床試験及び海外での市販後調査の成績をもとに、アダリムマブ投与中の有害事象の予防・早期発見・治療のための対策を提示し、各主治医が適正に薬剤を使用することを目的とする。
1. 既存の抗リウマチ薬(DMARD)通常量を3ヶ月以上継続して使用してもコントロール不良のRA患者。コントロール不良の目安として以下の3項目を満たす者。
2. さらに日和見感染症に対する安全性を配慮して以下の3項目も満たすことが望ましい。
註1)既存の治療とは本邦での推奨度Aの抗リウマチ薬であるメトトレキサート、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、レフルノミド、タクロリムス、生物学的製剤であるインフリキシマブ、エタネルセプト、トシリズマブを指す。
註2)アダリムマブは単独使用が可能であるが、海外臨床試験においてメトトレキサートとの併用により有効性が増強し、単独投与時と安全性に差がないことが確認されている。
1. 活動性結核を含む感染症を有している。
2. 胸部X線写真で陳旧性肺結核に合致する陰影(胸膜肥厚、索状影、5mm以上の石灰化影)を有する。ただし、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には必要性およびリスクを十分に評価し、慎重な検討を行った上で本剤の開始を考慮する。
3.結核の既感染者。ただし、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には、必要性およびリスクを十分に評価し、慎重な検討を行った上で本剤の開始を考慮する。
4. NYHA分類III度以上のうっ血性心不全を有する。II度以下は慎重な経過観察を行う。
※NYHA(New York Heart Association)心機能分類(1964年)
5.悪性腫瘍、脱髄疾患を有する。
1)本邦および海外のTNF阻害薬の市販後調査において、重篤な有害事象は感染症が最多である。特に結核・日和見感染症のスクリーニング・副作用対策の観点から、以下の項目が重要である。
| 肺炎のリスク因子 | 重篤な感染症のリスク因子 | |
| インフリキシマブ | 男性・高齢・stage III以上・既存肺疾患 | 高齢・既存肺疾患・ステロイド薬併用 |
| エタネルセプト | 高齢・既存肺疾患・ステロイド薬併用 | 高齢・既存肺疾患・非重篤感染症合併・class III以上・ステロイド薬併用 |
2)手術後の創傷治癒、感染防御に影響がある可能性があり、外科手術はアダリムマブの最終投与より少なくとも2週間以上の間隔を空けた後に行なうことが望ましい。手術後は創がほぼ完全に治癒し、感染の合併がないことを確認できれば再投与が可能である。
3)TNF阻害薬の胎盤、乳汁への移行が確認されており、胎児あるいは乳児に対する安全性は確立されていないため、アダリムマブ投与中は妊娠、授乳は回避することが望ましい。ただし現時点では動物実験およびヒトへの使用経験において、児への毒性および催奇形性の報告は存在しないため、意図せず胎児への曝露が確認された場合は、ただちに母体への投与を中止して慎重な経過観察のみ行なうことを推奨する。
4)TNF阻害薬はその作用機序より悪性腫瘍発生の頻度を上昇させる可能性が懸念され、全世界でモニタリングが継続されているが、現時点では十分なデータは示されていない。今後アダリムマブを含むTNF阻害薬のモニタリングを継続するとともに、悪性腫瘍の既往歴・治療歴を有する患者、前癌病変(食道、子宮頚部、大腸など)を有する患者への投与は慎重に検討すべきである。
参考文献
1) Ann Rheum Dis 2006; 65: 983
2) Ann Rheum Dis 2008; 67: 189
3) Arthritis Rheum 2007; 56: S182
4) N Engl J Med 2007; 357: 1874
5) Arthritis Rheum 2006; 54: 628
有限責任中間法人 日本リウマチ学会
リウマチ性疾患治療薬検討委員会
委員長 宮坂信之
(2008.7.24)